GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

課題を面白がる心

高木 市之助さん

グラフィックやウェブだけでなくソーシャルデザインまで。いわき市を拠点にさまざまなデザインを手がける高木市之助さん。デザイナーとしてだけではなく、アーティスト的、アクティビスト的に地域に入り込み、福祉や文化芸術などの領域でも活動されています。高木さんに、社会課題との向き合い方、課題解決におけるデザインの役割などについてお話を聞きました。

高木さんのデザインは、例えば「アリオスペーパー」をはじめ、いわきを代表するかまぼこ産品「さんまのぽーぽー焼風蒲鉾」のパッケージ、ウェブマガジン「いごく」など、さまざまなところで見ることができます。つい先日も、いわき市内郷の白水で開催された「しらみずアーツキャンプ」という企画で、いわきアリオスの長野隆人さんと、デザインやアートについて討議する高木さんの姿がありました。

いわきで今、もっとも旬なデザイナーの一人として知られる高木さんですが、最近になって「メディアユニバーサルデザイン3級」の資格を取ったそうです。プロのデザイナーとして幅広い活躍をしているのに「3級」の資格。そこにギャップを感じました。そんな資格など必要ないようにも見える活躍なのに、なぜその資格を取ったのか。それを聞いてみたかったというのが取材を申し込んだ理由でした。

高木:デザイナーとしてフリーランスになって、このタイミングでもう一度しっかりとスキルや知識をちゃんと学ぼうと思って。この試験を受ける前にも、文字組版についてはモリサワの講座を受講してましたし、今も宣伝会議のアートディレクター養成講座を受けたりしてて、その一環としてメディアユニバーサルデザイン3級を取ってみようと。人生をデザインに捧げることにしたし、やっぱりいい仕事をしたいし。そのあたりがざっくりとした理由です。

デザインには免許がありません。スキルがなくても誰でもデザイナーを名乗ることができます。だから、検定試験のようにスキルや知識を証明できるものがあったらいいなと思っていたんです。それでモリサワに問い合わせてみたら、文字組版だけの資格はないんだけど文字組版を含めた全般の資格試験に「メディアユニバーサルデザイン」というのがあるんだと教えられて。それで受講して、試験に合格できました。

3級は主にユニバーサルデザインの定義や色覚に関すること、文字組版に関することが問われる試験でした。一昔前だとユニバーサルデザインは「バリアフリー」の意味で使われていたけれど、そもそもバリアフリーとは違っていて、バリアがそもそも生まれないようにしよう、というのがユニバーサルデザインです。障害のある人や高齢者とかだけではなくて、子どもも、外国人もと、対象はどんどん大きくなるものですよね。

これは文字組版の先生が言っていたことなんですけど、綺麗に文字を組むことは、すでにユニバーサルデザインなんだって言うんですね。確かに、小さい文字をぎゅうぎゅうに詰めちゃったら読みにくいし。3級の試験ですが、これまで実践の中で経験したことと理論が結びついて、ああ、こう言うことだったのかとか、あれはちゃんとしなくちゃとか、いろいろな気づきがありましたね。あとはやっぱり高齢者福祉のプロジェクトとかに関わるようになって、自然とそういう領域、誰もが使いやすいとか、そういうデザインって何だろう、みたいなことを考えるようになったというのはあります。

しらみずアーツキャンプで、いわきアリオスの長野隆人さんと話す高木さん(左)

−デザインとアートのバランス

高木さんの特徴が、デザイナーとして、だけでなく、むしろアーティスト的に地域に入り込み、そこでトライアンドエラーを繰り返すようなアプローチ。いわき市の地域包括ケア「いごく」のメディアでも、体当たりの取材をしてみたり。いわゆるデザイナーという枠にとらわれない活動を続けています。

高木:いわきアリオスの長野隆人さんと、とある講座の講師をやったとき、「市之助さんはアートやるときは自由ですね。ワークショップもああしろこうしろと言わない。こうなっちゃたらこうしようと常にトライアンドエラーのスタイルです。でも、デザインは緻密にやりますよね。その違いはなんですか?」と言われて、それで改めて考えたんです。大雑把かもしれないけれど、その時は、デザインは答えを提示するもの、アートは課題を提示しながら行き当たりばったりに面白くやっていくものじゃないかって答えたんです。二つの行為のベクトルは全然違うと。

どちらかというとデザインはお題ありきな気がします。テーマがあって、予算はこのくらいでという条件がまずあって、カチッとした座組みで進めていきます。これに対してアートプロジェクト的に物事を進めると、とにかく現場に入ってみることから。やっちまえ、えい、ってスピード感を持って取り組むことが求められます。だいたい緻密にやっていったら「やらない」って選択肢になりますから。

デザインとアートは違うけれど、ぼくの中で両立しているのは「ものを作る」こと。それが楽しいんですよ。かまぼこメーカーに勤めていた時もそうでした。デザイナーだからって現場の仕事がつまらないかって言ったらそうではなくて、製造も楽しいんです。どうやったらもっとうまくなるのか、上手に機械を使えるのか、そのソリューションを考えることが楽しかったですね。

インタビューは、ソーシャルスクエアいわき店で行いました

小名浜のタウンモールリスポ閉店イベントのプロデュースも担当した。高木さんのフェイスブックページより

−人を想像して地域と向き合う

地域に溢れる社会課題をいかに解決するのか。アートが用いられることもあるし、デザインへの期待が高まることもあります。高木さんに寄せられる相談も、やはり何らかの「課題」を解決するためにデザインの力を借りたい、というものが増えているそうです。高木さんは、デザイナーとして、どのように課題と関わろうとしているのでしょうか。

高木:地域課題って一口に言っても、それを改善するためにはそれこそ5年、10年かかるし、それでも全部が解決するわけじゃない。地域課題として「限界集落」とか「人口減少」とか言われてるけど、何が課題なのかっていうと、もっとバスの本数とかゴミ収集車の回収場所を増やして欲しいとか、課題は生活の中にあったりするものです。それってやっぱりその地域に入ってみないと分からないと思うんです。

なんらかの課題に向き合うって時、民間のお金と自治体の補助金を使うのと、どちらも成果は出さないといけないけれど、補助金でないとできないことがあるよなって最近は思うようになりました。経済的なものをゴールにしないことで、お金に還元できないもの、数値化できないものを成果にできる。それは補助金の強みでもありますよね。例えば、なんらかのイベントに人が来なかったとしても、そのイベントによって覚醒してしまった人が後になって大活躍したりすることがあります。やってみないとわからないんですよ。あれって最初から採算を考えてやっていたら難しいと思うんです。そういうものに予算を割けるのは自治体の強さでもありますよね。

ただ、そういう違いはあるにせよ、結局、何かを届ける相手は社会にいて、その人たちとコミュニケーションするための手法としてデザインがあるわけですから、デザインもアートも地域課題も、人を想像していきたいと思っています。「おじいさんおばあさんに向けて」みたいなイメージで作ってしまうと相手の顔をイメージしにくい。どこそこの誰々さんを思い浮かべてみるんです。相手や受け手がしっかりと想像できるはずです。

課題や障害を「楽しむ」ことも重要だと語る高木さん。

課題があると言われても、地域に入ってみなければ、その課題の本質は見えてこない。常に「現場」を見据え、そこに暮らす人たちの顔を思い浮かべながら、課題の根源がどこにあるのかを見定めていく。デザインとアート、高木さんに両立するこの二つの回路は、アプローチこそ異なりますが、実は同じ目的地を目指しているのかもしれません。

高木:課題という意味では、デザイナーの仕事も課題だらけです。期日とか予算とか、なんらかの縛りがあるものですよね。デザイナーになりたての頃は、自分の作りたいものが作れないことをネガティブに感じていましたが、最近は、その課題を解決すること自体が面白くなってきました。結局デザインって、そういう条件、やりにくさというか、障害のようなものと共に進めるものだと思うんです。

例えば、スーパーマリオを普通にクリアしてもいいけど、コインを1枚も取らないでクリアしろと言われて、実はそっちの方が面白かった、みたいな感覚ですかね。あらゆるデザインは何かしらの制約のなかで動かざるを得ません。その解決策を考えるのが面白いんです。言われたことをただやることほど辛いことはないです。なぜこの制約があるのだろう。逆にそっちを解決したらどうだろうとか、これをドッキングしたら一発でクリアできるじゃんとか、その辺を考えるのが面白いんですよ。

デザイナーの佐藤卓さんが言ってたんですが、世の中にデザインが関係しないものはない。グラフィックやプロダクトだけじゃなくてソーシャルデザインもあると言っていて、社会というものを考えたとき、やっぱりデザインってとても可能性がある言葉だなと。アプローチは大きく違うけれど、ぼくの中では物作りを通じて社会と向き合うということ、課題を面白がっちゃうというところで、アートもデザインも共存してるのかもしれませんね。

高木 市之助(たかぎ・いちのすけ)

グラフィックデザイナー/アートディレクター。小名浜本町通り芸術祭実行委員長。グラフィックデザイン、イラストレーション、企画などをフリーランスで行う。

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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