GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

トケル vol.1 場づくりから始まるまちづくり

岩清水銀士朗さん × 小松理虔さん

MUSUBU × いわきFC × GOCHAMAZE トケルvol.1

岩清水銀士朗(いわきFC) × 小松理虔(地域活動家)

場づくりから始まるまちづくり

いわき市に誕生したサッカークラブ「いわきFC」のスタッフの皆さんと、地域づくりのプレイヤーとの対話を通じて、いわきをもっと“ごちゃまぜ”に、様々な価値観が溶けあうような地域を考えていきたい。そんな思いから、地域団体MUSUBUといわきFCがコラボし始まった企画「トケル」。第1回は、いわきFCの岩清水銀士朗COOと、ごちゃまぜタイムスでも執筆活動中の地域活動家、小松理虔さんの対話です。

対談:7月15日 いわきFCステーションにて

小松:今日はよろしくお願いします。岩清水さんは、最初のキャリアはスポーツクラブ・ガイナーレ鳥取、そして湘南ベルマーレと経験して、今こうしていわきにいらっしゃったわけですが、どの町も海に近く、共通するところもあるような気がします。いわきの町の印象とか、他の町との違いとか、感じることはありますか?

岩清水:いわきは晴れの日が多いと思います。ぼくは神奈川県の出身で太平洋側で育ったので、鳥取は初めて住んだ日本海側の町でした。晴れの日はとても気持ちよかったですが、ちょっとどんよりした日も多いかなという印象で。天気だけでちょっと気持ちが落ちてしまうようなところがあったので、天気って本当に大事な要素なんだなと気づかされましたね。でも、自然は豊かで、本当に素晴らしいところだと思ってました。その後、湘南に移り住みましたが、ほんと暑かった…(苦笑)。 いわきは神奈川に比べて暑くないので、スポーツをするうえで、すごく魅力的です。

小松:そうですね、地元の人間からしても、住みやすさでいえば全国トップクラスだと思います。そのいわきで、サッカーだけでなくスポーツの振興を全般的に押し出していらっしゃるところだと思いますが、今、いわきFCのファンクラブの方は、3450人ほどだそうですね。その数字の伸び感っていうのは予想通りでしたか?

岩清水:ほんとうにたくさんの方に応援していただいて、予想以上なところはあるんですが、去年からそこまで数字に大きな変化が出ないようになりました。チーム立ち上げ当初は、例えば天皇杯で強いチームに勝ったりとかあったこともあって(2017年にコンサドーレ札幌に5-2で勝利)、それが数字につながっていたことが大きかったと思いますが、立ち上げのときはもちろん注目されますし、常に発信力を継続することは非常に難しいことだと思っています。

−クラブの哲学を伝える

小松:でも、やっぱりいわきFCと聞くと、諦めないとか、絶対に走り負けないとか、攻撃的に行こうとか。ほんとうにビジョン先行型のプロジェクトだと感じます。そういう風に、とにかくビジョンを打ち出していくんだというスタイルって、それはスポーツビジネス全般的にそうなんですか? それとも、やっぱり大倉さん(いわきFC代表)の影響が強いんですか?

岩清水: そうですね。まず、スポーツチームだけではないと思いますが、何を行うにしても当然、哲学や理念は掲げることは大事だと思います。 ただスポーツでなので、どうしても勝利をすることはとても大事なことです。 ぼくらもスポーツチームなので、勝利を目指すことは当然ですが、目的は勝つことが全てではないということです。 一生懸命やった先に勝つからファンは喜んでくれるのだと思うので、だからとにかく一生懸命やろうと。

勝負事なので勝利は大事なことですが、何より大事にしたいことはスポーツの本質的な価値を追求し、クラブのミッションである「いわき市を東北一の都市にする」ことだと考えています。 会社として哲学があり、それに基づいて体現したいサッカーがあって、それを実現できる監督を選ぶべきなのかなと思っています。

だからこそクラブの哲学が反映されるわけですよね。監督によってサッカーが左右されるのはやはり違うのかなと思っています。 スポーツチームが存在する意味をしっかりと見つめ、哲学を据えて活動していくことが大事だと思います。

小松:サッカーチームを運営するときに哲学というものがゲームも作っていくし、ファンも開拓していくわけですね。それは地域も同じで、誰が市長になるかで地域が揺らぐのではなくて、いわきってこういう町だよねってビジョンや哲学がまずないといけない、ということかもしれません。チーム創設から3年となると、新たにファンクラブになる人たちがチームに期待することも変わってくるだろうし、ファンを拡大していくためにも、より広い層に訴えかけていく必要がありそうですね。

いわきFCパーク3Fの「RED & BLUE CAFE」のパンケーキをお振る舞い

RED & BLUE CAFEのアイスコーヒーも。カフェで過ごす時間のようにゆったりトーク

岩清水:そうですね。でも、大事なことはブレずに、今日みたいな小さな場を作って、そこでビジョンや哲学を訴えていくような機会をもっと作らないといけないなと思います。いわき市は34、5万人の人口がいるわけですし、もっと地域に入り込んで、チームのビジョンを伝えていきたいです。

小松:色々な取り組みがありますが、面白いのは、いわきFCクリニックですね。単に敷地内にクリニックを開院するだけじゃなく、夜間や休日に、電話一本で先生が自宅に来て診療してくれる。一見するとサッカーチームと地域医療ってイコールで結びにくいけれど、チームが持っているノウハウやスキルを地域に開いていくんだという姿勢が強く現れていると思いました。こういうのって他のクラブでもやってるんですか?

岩清水:例えば鹿島アントラーズは 、スタジアムにスポーツクリニックを 併設し、医療の分野で地域と向き合っています。私たちも、チーム立ち上げ当初から、いわき市が医療の課題を抱えていることは聞いていましたし、スポーツと医療ということであれば、ぼくたちも何かしら貢献できることがあるはずです。積極的に地域に関わり、自分たちのノウハウをシェアしていくことも、チームのやるべきことだと思いますね。

会場となったいわきFCステーションからは、美しい緑の人工芝が見える

小松:医療だけでなく、選手たちのフィジカルトレーニングのノウハウももっとシェアして欲しいですよね。この間、いわきFCのサーキットトレーニングのイベントに参加させてもらいました。あれ、ほんとうに素晴らしかったです。プロのコーチにしっかり指導してもらえるとモチベーションが上がるんですよ。しかも田村監督が「もっとイケるだろ」とか「限界超えろ!」とか声を出して励ましてくれる。これまで経験したトレーニングとはまるで違う体験でした。

多くの人が言うように、確かにクラブハウスはいわきの中心部から離れてるけれど、湯本温泉にも近いし、湯本インターからも近いので、観光客と地元の人が混じり合うような場所としても機能しますよね。いわきの食をここに集めたらものすごく反響あると思います。この間はナイトマーケットもやっていましたよね?

岩清水:ナイトマーケットは、試合の時には見ないような層のお客さまにたくさん来てもらいました。

小松:サッカーの施設だけれど、サッカーだけじゃないっていう人がどんどん集まるといいですね。今日のトークもそうかもしれません。公民館でもあり物産館でもありスポーツジムであり健康センターであり、みたいな。そういう場所づくり。

岩清水:今年から取り組んでいる「パークシェア」がまさにそれですね。例えば、今私たちがいる場所も、選手が昼夜ごはん食べてるだけだったんです。それを開放すれば皆さんが集まれる場所ができる。だからどんどん使っていただきたい。会議室もあるし、子どもも遊べるし。みんなが使える公園のような施設にしたいんです。

小松:まさにスポーツを通じた地域づくりですね。

地域活動家としての「リクエスト」を岩清水COOに伝える小松さん

岩清水:欧米では、スタジアムが中心になってスポーツと地域づくりが一体になった取り組みを進めています。いわきでも、そういう調査が始まっています。去年ですが、いわき市と専門家会議を立ち上げて様々なリサーチをしてきました。その結果が、5月に発表されたところです。

小松:そうでしたね。スタジアムをどこに作るか。平、小名浜、湯本、それから内郷の4地区が候補地区として挙げられていて、小名浜なら観光地と一体化したスタジアム、湯本なら温泉を利用とか、地域ならではのモデルが想定されていました。でも、結局どこに作っても赤字というリサーチ結果でしたよね。

岩清水:はい。でもぼくは、そういう「単体黒字」だけを成果とするような問題設定自体が良くないと感じました。 スタジアム単体の経済効果だけでなく、何が地域にとってプラスなのか、どこにロイヤリティを感じるか。そういう指標づくりから始める必要があると思います。他のどこもチャレンジしたことがないことをやろうとしているときに、前例だけで評価してしまったらもったいないですよ。

小松:最近、「関係人口」という言葉がよく使われます。移住だけが成果じゃないんだと。そういう言葉が発明されると、これまでの評価軸がガラリと変わりますよね。だから、スポーツとビジネス、地域を考えるうえで新しい価値を生み出せるような言葉を発明しないといけないのかもしれませんね。でもなあ、いわきは本当に複雑で、地域によって顔が全然違うし、地域づくりのプレイヤーも違いますから大変ですよね。

岩清水:いわきFCを立ち上げたときは、すでにアンダーアーマーの物流センターがあったので地ならしされていましたが、センターを作る時には大変だったようです。ぼくたちはよそ者ですし、本当にここに根付こうとしているのか疑われてしまうのも当然かもしれません。なので、ちょっとずつ、ちょっとずつやっていこうと。今ではスポンサー企業も160社くらいまで増えました。本当に地域の皆さんに支えられているなと感じてます。

参加者のみなさん、時折笑顔になりながら、二人の対話に聞き入っていました

−いわきでの「友だち」づくり

小松:スタッフの方は地元よりIターンの方が多いんですか?

岩清水:そうですね、地元は7、8人くらいであとはみんな県外出身です。

小松:やっぱり、地方って県外出身者の客観的な目線が必要だと思うんです。だからいわきFCのスタッフには、どんどん地域づくりに参加してほしいんです。この間、小名浜の商店街の飲み会に、いわきのクリニックのスタッフがPRに来られてたんですよ。ちょっと残念だったのは、ふたりとも忙しくされてるようで、プレゼンだけで飲み会には参加されなかったこと。今後はU・Iターンでいわきに来た人が、地元の商店会みたいなところにどんどん顔を出してほしいですね。

岩清水:そうですね。本当は行きたいんです。でも、なかなか行くきっかけがないというか。ぼくたちのアンテナが立ってないだけかもしれません。スタッフは市内の各地に住んでるので、飲み屋を開拓しろと伝えています。

小松:いわきFCが3年間奔走してきて、今までは「いわきFCの岩清水さん」だけど、これからは個人名が先に出ていって、後々聞いたらいわきFCのスタッフだったと気づかれるみたいな。そういうゆとりがあってもいいかもしれませんね。

岩清水:それはなかなかない視点ですね。いわきFCの宣伝というか、まず「いわきFCです」と言ってしまいますからね・・・・。

小松:これは個人的な考えですが、「いわきFCです」って言われると、ちょっと宣伝の匂いを感じちゃうというか。そこで「いわきFC」という壁を作ってしまって、スタッフ個人に行かない。だから、友達をつくるというより、ビジネスパートナーみたいになっちゃうのかもしれません。

岩清水:そうですね。やっぱり、これからいろいろなことを変えていかなければならないということだと思います。立ち上げから、とにかく必死になって開拓してきたけれど、なんというか、創業期からフェーズが変わったということだと思います。これからは何千人という人がスタジアムに集まるという世界を作っていかなければならないので、やり方を変えなくちゃいけないのは確かですね。

小松:小名浜にイオンモールができたとき、イオンモールの人がスーツを着て「地域の経済を活性化するためにアイデアを探しています」って来たら警戒しちゃうけど、小名浜のパン屋さんでワインのイベントがあったとき、たまたま隣の席のグループがイオンの人たちだったんです。世間話をしていくなかで、実は私たちイオンの誰々でって話になって。そういうやり取りから始まると、イオンの人ではなく個人として出会える。ほんと、小さいことかもしれないけど、出会い方って大事だなって思いました。

岩清水:なるほど面白いですね。だったら、そういうときはアンダーアーマーは着ていかないほうがいいですかね?(笑)

チームの立ち上げから、ファンの拡大へ。フェーズの変化を感じているという岩清水COO

小松:今、いわきの人たち結構アンダーアーマー着てるから、そこは大丈夫です(笑)。この3年くらいでアンダーアーマーを着てるいわきの人たち増えましたよね。

岩清水:すごくうれしいです。なかなか他の地域では見ない現象なので。

小松:5年くらい前からアンダーアーマーの細めのウェア着てる人をけっこう見るようになりました。ぼくと同じ年齢くらいの男性が、贅肉、、、いや、筋肉のラインを見せつけるようにピチッと着てる感じ。

岩清水:アンダーアーマーのイメージってどんな風に感じられてますか? 実はマネキンを特注してたり、プロレスラーのザ・ロックをイメージで使ったり、かなりスポーツに振り切ってる印象がありませんか?

小松:そのいい感じの荒々しさがいいと思います。

岩清水:アンダーアーマーには「UNDER DOG」っていう精神があるんです。ただの負け犬じゃなくて喰いついてやるっていう。

小松:それが、いわきFCの走り負けないスタイル、ジャイキリしていくぜっていうイメージに合致してるなと思います。いわきは昔は炭鉱の町で、いまもあちこちに工業団地がある。つまり働く人たちの町です。それでイメージするのはイングランドで。労働者が頑張って働いて、週末は地元のサッカーチームを応援する、負けたときは一緒に悔しがったり叱咤激励しながら、子どもたちも一緒になって育っていく。あれだなと。

で、そういうのを言語化していくと、なんだかんだ、いわきFCって「いわきっぽいな」って思えてくるんですよ。そうなったら、今度は自分たちで意識するようになる。例えば平のどこぞの中学校のサッカー部の選手も、オレたちはいわきのフットボーラーなんだから絶対に最後に牙を剥いてやるんだって、走り負けないぞって。それで全国大会に行くと、いわきのチームは後半絶対にやってくるぞって恐れられる、みたいな。クラブのメンタリティやビジョンと、地域のカラーが合致していく。そういうレベルまで持っていけてる地域って他にないと思うんです。

岩清水:そうですね。ぼくたちも、やはり地域に合ったビジョンでありミッションでなければいけないということをいつも話しています。一番最初は「日本のフィジカルスタンダードを変える」っていうことを掲げていましたが、少しずつ変化してきています。クリニックを通じて地域の医療に関わるようになったこともそうですし、パークシェアの取り組みもそうです。よりいわきらしいものになって来ている、ということかもしれません。

小松:いわきの最大の地域課題って、やっぱり医療であり健康だと思います。そこでこそ「フィジカルスタンダードを変える」は光を放つ気がします。選手のフィジカルだけじゃなく、いわき市民のフィジカルスタンダードを変えるってこと。その意味では、もっと健康や食、日常的な分野にも踏み込めそうですね。

岩清水:今、ちょっとずつ口コミで、ドームから来てる栄養士から講習を受けたいというオファーや、ジムでやっていたトレーニングを、うちの工場に勤めている社員のためにやりたいという依頼が入るようになりました。社員が健康になれば会社のパフォーマンスも上がります。それは、いわきのポテンシャルを引き上げることにつながるかもしれません。そういうところは、もっと可能性がある気がしますね。実は、小松さんが参加されたサーキットトレーニングも、8月中旬から正式にやって行こうと思ってるんです。

小松:いいですね! 最後に、岩清水さんの個人的な抱負も聞かせてください。

岩清水:結婚しないといけないなという・・・笑。相手がいないんですけど。

小松:相手がいないなら、それこそ地域のなかにどんどん溶け込んでいないと。鍛えこんで、アンダーアーマー着て。

岩清水:いろんな方と会うんですけど、なかなかそういった出会いがないというか…。

小松:あっ、でもきっとそれがヒントですよ。やっぱり友達をどれだけ作るかっていう。

岩清水:元日本代表の岡田監督が、今、FC今治というチームのオーナーをしてるんですが、その岡ちゃんも「友達を作れ」と言ってるんです。その結果、今治は、JFLで3000人の観客を集めるチームになっています。

小松:これまで3年間がむしゃらにやってきて、きっと友達を作る余裕もなかったんじゃないですか? これからは少しゆっくりと友達を作る。そんなフェーズかもですね。

岩清水:今日はたくさんヒントをもらった気がします。いわきFCとしても、またこうして対話の機会も作っていけたらと思います。今日はありがとうございました。

小松:ありがとうございました。いわきFCが、そこまで地域のことを考えてくれているということを知れただけでも、大きな収穫がありました。 この話の続きは、ぜひ小名浜の居酒屋で!

会場の外で記念写真を撮影。満員の方にお越し頂きました

岩清水 銀士朗(いわしみず・ぎんじろう)

いわきFC COO 兼 マーケティング本部長。神奈川県出身。大学卒業後、Jリーグクラブであるガイナーレ鳥取、湘南ベルマーレのフロントスタッフとして勤務。株式会社いわきスポーツクラブ立ち上げ時から関わり、現在いわきスポーツクラブのCOOを務め、マーケティング・営業・コーポレート・ファシリティなど、ビジネスサイドの責任者として従事。目下筋トレにハマり中。猫が好き。https://iwakifc.com/

小松 理虔(こまつ・りけん)

地域活動家。屋号「ヘキレキ舎」として文筆、媒体制作、広報PR、イベント企画、各種プロジェクトのマネジメントなど、地域に根ざしたよもやまに関わる。単著『新復興論』で第18回大佛次郎論壇賞受賞。共著に『常磐線中心主義』、震災文芸誌『ららほら』、『ローカルメディアの仕事術』など。http://www.hekirekisha.com/

 

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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