INTERVIEW

子どもたちの「働く」を諦めない

SPECIAL INTERVIEW
面川 英範さん
福島県立平養護学校教諭/特別支援教育コーディネーター

障がいを持った子どもたちが「働くこと」を諦めない社会にしていきたい。そんな思いで、生徒たちの進路指導や、地域の企業に対する働きかけを続けている、平養護学校の面川英範先生。それぞれが違う障がいを持つ生徒に合った指導を模索し、時に厳しく子どもたちを育てています。障がいを持つ生徒たちの就職の現状について、そして、面川先生が思い浮かべる障がい者との関わりについて話を伺ってきました。

 

平養護学校は、いわき市平平窪(たいらひらくぼ)地区の丘の上にある、肢体不自由の児童生徒が通う特別支援学校です。小学部、中学部、そして高等部の3つの部に分けられ、7年ほど前に建て替えられた素晴らしい校舎で、およそ100名の児童生徒が学んでいます。

平養護学校のような「特別支援学校」は、視覚障がい、聴覚障がい、知的障がい、肢体不自由、病弱の5つの障がいの種類に分けられており、肢体不自由の児童生徒が通う養護学校は、福島県内には平以外に郡山養護学校の2カ所しかありません。このため学校の隣に寄宿舎も設けられ、通学の難しい遠方の児童生徒も受け入れています。

面川英範先生は、この平養護学校に勤めて7年。進路指導部長として、子どもたちの就労支援や、生徒を受け入れる地域の企業との関係づくりに奔走しています。実は、ソーシャルスクエア内郷も、面川先生を通じて現在ひとりの生徒の就労支援をしており、生徒が今何をどのように学ぶべきか、日々面川先生とやりとりしています。面川先生に平養護学校の生徒の「就職」について聞きました。

わたしの仕事は、外部の企業と生徒たちを繋ぐ仕事です。企業の経営者にとって養護学校の生徒というのはまったく未知の存在です。ですから、企業側から採用の募集があったときなど、企業に直接伺って「こんな障がいを持ったこんな子がいます」というところから説明をしにいくんです。障がいというのは子どもたちによってバラバラです。「養護学校に適した仕事」ではなく「その子に向いた仕事」を探さなければ就労に繋がりません。今はそのためにあちこちを歩き回ってます。

また、本校では年に2回ほど、企業や福祉事業所で1週間の業務を体験する実習時間を作っています。そこで1週間過ごすことで、自分は将来こんなところで働くんだな、という実感を得ることができますし、自分の中で足りないものや、もっと学ばなければならないものを発見することができます。やはり「自分に何ができて、何ができないのか」を自分で把握しないといけません。そこは生徒の進路指導で一番力を入れているところですね。

例えば、「自分は右手に障害があるから、右側にある棚を左側に付け替えれば作業がしやすい」とか、「ものをつかむのがうまくできずによく落としてしまうので、机に縁をつけて落ちにくくして欲しい」とか、今どうすれば現状の問題を改善できるのかを自分の口で説明しなければなりません。子どもたちの障がいは、それぞれ程度も重さも違うのでマニュアル化できないんですね。それぞれが前例のない障がいに向き合っている。しかし、だからこそ「自分で解決する能力」を育てていかなければならないんです。

今、車いすの子がいるのですが、在宅ワークを希望しています。車いすなのでどうしても通勤ができない、バスや電車にも乗れないという課題があります。トイレ介護も必要です。さすがにそこまで整えてくれる企業はほとんどありません。今までの社会だと、そういう子たちは一般就労を諦めざるを得なかったんです。せっかく働きたいという気持ちがあるのに、それだけの力もあるのに、どうしても超えられないハードルがあって就職できない。

ソーシャルスクエア内郷さんが在宅ワークのノウハウを持ってらっしゃるということなので、その生徒の指導を合同で進めています。例えば日常のやり取り1つとっても、「スカイプ」でこなすことができればハードルが1つなくなります。自宅以外でも、例えば介護の送迎サービスを使って生活介護事業所に行き、そこで日常生活の介護を受けながら在宅ワークの仕事ができる。それができれば、あの子の夢は叶うんじゃないかと思うんです。今はITの基礎をコツコツ学んでいるところですが、働くという夢がますます膨らんできました。


手や指に障がいのある子どもたちにも使いやすいよう工夫された水道。回しやすくなっている。


机や椅子なども多様。個人の障がいの重さや種類などによってさまざまな形がある。


平養護学校のシンボルにもなっている長いスロープ。普段はエレベーターを使う生徒たちの、いざという時の避難経路になる。

―厳しい就職戦線に立ち向かう「養護学校の生徒」たち

面川先生が就労支援に奔走するのは、子どもたちの働くという夢をサポートしたいから。しかし、子どもたちの夢がなかなか叶えられないという厳しい現実もまた、目の前には存在しています。それが、障がい者雇用の法的な壁です。

現在、厚生労働省は、雇用する労働者の2.0%に相当する障がい者を雇用することを企業に義務付けています。これを満たさない企業からは納付金を徴収し、逆に、雇用義務数より多く障がい者を雇用する企業に対して調整金を支払ったり、障がい者を雇用するために必要な施設設備のための助成金を出したりしているのです。

一見すると、障がい者の雇用は一定度守られているようにも感じますが、企業側にとっては「100人に2人」という実績があればよいので、障がいの度合いが低い、あるいは普通のキャリアを積んだ中途障がい(もともとは障がいがなかったが病気やケガなどで障がいを負ったケース)の方を雇う割合が高くなっているといいます。小さな頃から、あるいは生まれた時から身体が不自由な養護学校の生徒は、この「100人に2人」の中に入ることが難しいのです。

今、障がい者雇用を取り巻く環境は少しずつ改善されてきています。法定雇用率が1.8%から2.0%に上がりましたし、障がい者納付金制度の対象事業主も、これまでの201人以上の規模から101人以上の規模になりました。いわき市の雇用率も7年前は1.33%だったのが現在は1.78%まで上がってきました。本来は2.0%なのですから、もっと採用が検討されるべきです。さらに、2.0%を達成している企業は、いわき市では50.4%しかありません。これからまだまだ伸びてくると思います。

しかし、肢体不自由ってどうなんだろうって思ったとき、障がい者雇用の求人は増えているのだけれど、この学校の生徒に適した仕事がないんです。具体的には、部品の組み立てや清掃、荷物運びなど、身体を使う仕事はたくさんあるのだけれど、座ってできる仕事はなかなかありません。ところが、障がいの種類別で就職者を見ていくと、障がいを持った就職者のうち実に7割が身体障がい者。身体障がい者は、実はかなりたくさん就職しているわけです。どういうことなんでしょうか。

つまり、この7割の人たちの多くが、普通の学校で普通に育って、普通に働いてきた人なんですね。養護学校から企業を目指すというと、うちの学校でも毎年1人いるかいないかくらいのペースです。企業からすれば、養護学校の卒業生はよくわからないし、机に座ってできる事務職や技術職はキャリアのある人に任せたい。施設的にも、段差とかトイレとかを改装するお金もない。100人のうち2人採ればいいんだったら、キャリアのある人を採ったほうがいい、というようになっているのかもしれません。

ですから、こちらから企業に出向いて、どんどんうちの学校を知ってもらって、「確かに全部の仕事は任せられないけど、この仕事ならこの子はできるな」というように、業務の「切り出し」をしてもらうよう促しています。学校は学校でこう頑張っていきます、企業はここをお願いしますと、雇用前に綿密に情報交換していくことが就労につながっていくと思います。お互いに接することが大事なんですね。


進路指導部長として企業の間を走り回る面川先生。もともとは中学校の国語の教師だったが、今後は養護学校専門の教諭としてキャリアを積む決意だ。


校舎のなかはバリアフリー。木材をふんだんに使用しており、羨ましくなるほどの素晴らしい校舎で、児童や生徒が学んでいる。


平窪の中心地から少し離れた丘の上。とても静かな環境で、学習や訓練に集中できる環境。

―養護学校で学ぶことのメリット、デメリット

面川先生にインタビューをお願いした教室は、椅子に車輪がついていたり、机に縁がついていたり、水道も使いやすくなっていて、至る所がバリアフリーになっています。校舎も新しく、至る所に木材が使われ、これなら児童生徒たちもできるだけストレスなく学ぶことができるだろうと感じられました。しかし、そうした恵まれた環境に対する面川先生の考えは、少し違うようです。

これだけ恵まれた環境で育つと、支援されることに慣れてしまう面があるんですね。ドアが開けられなかったら先生が開けてくれるまで待つ。ものを落としたら誰かが拾ってくれるまで待っている。そんなところが子どもたちにはあるので、「自分に何ができないか」の判断ができなくなってしまう。これからは、問題を自分で解決していかなければならないはずなのに、自分のどこに問題があるのかに気づきにくくなってしまうわけです。ですから「自分のできないこと」を自覚できるよう、さまざまな交流の場を作ったり、体験できる実習の場を作るようにしています。

それに、集団の中で育っていないということもデメリットかもしれません。先生たちに常に見てもらって当たり前ですから。普通の高校なら生徒30人で先生が1人くらいですよね。でも、うちの子どもたちは同級生が3人くらいしかいません。すごく狭いところで暮らしているんですね。だからこそ、余計に「いつか羽ばたきたい」、「もっと広い世界に出たい」という気持ちは持っていると思いますよ。ただ、とても狭い社会で生きているので、果たして自分の力でやっていけるのか、社会が受け入れてくれるのかという不安を持っているんです。

一方で、自分が障がいを持っていることでいじめられたり、心を傷つけられる可能性が低いことはメリットでしょう。わたし自身も、養護学校の1人ひとりに向き合う教育にとても魅力を感じています。この子は今何が必要だろう、そのために何ができるだろう、そういうことを1人ひとりに対して考えられるんです。もちろん、そうしたメリットもデメリットもよく知った上で、私たちは生徒たちに接する必要があります。生徒たちも、自分のできるものとできないものを現実的に把握して、就職に結びつけなければなりません。

―障がい、とは何か

もし同じ会社の同じ部署のなかに障がいを持つ人がいたら、あなたはどうチームワークを育んでいくでしょうか。面川先生がさきほどデータを示したように、いわきの障害者雇用率は1.78%。これから新たに雇用される障がい者はさらに多くなることが予想されます。しかし一方で、私たちの多くは、障がいを持つ人たちがどのように暮らし、どのような教育を受けて育ってきたのか、その現状をほとんど何も知らずに育ってきています。多様性を認め合うべき社会のために、私たちは今以上に彼らのことを知ろうとするべきなのかもしれません。

うちの学校の生徒が就労できたら、もちろんそれはすごくうれしいですよ。でも、ものすごく我慢をして、その会社の経営者が慈愛の心で障がい者を雇っていて、そのために現場がとても苦労することになったら、それは幸せではありませんよね。それに、障がい者だからと自分だけ特別扱いされたら、生徒自身も申し訳ないと思ってしまうと思います。

やはり、WinWinの関係というか、会社のほうも生徒もよかったと思ってもらえることが一番の理想ですよね。受け入れてくれる人の我慢の上に成り立つ採用ではなく、「全部はできないかもしれないけれど、この仕事をこうしたらすごく役に立つ、戦力になるよ」というように、仕事の一部を切り出して雇用ができたらなと思っています。

彼らはみんな普通の子です。他の高校生と同じですよ。やっぱり誰かに信頼されればうれしいし、仕事を任されたら一生懸命やりきろうとするものです。「仕事しなくていいから君はそこにいればいいんだ」と言われて、そこに喜びを感じられるでしょうか。自分は頼りにされている、自分の仕事がみんなから感謝されてる、そういう感覚が得られることがとても大事なんだと思います。

彼らと私たちは対等であるべきです。例えば、今の時代に「眼鏡」が存在しなかったら、今眼鏡をかけている人のほとんどは障がい者ですよ。眼鏡があるおかげで「障がい者」とは言われませんけどね。障がいというのは、自分の身体のことではなく「周囲が受け入れられない状態になっている」ことなんじゃないでしょうか。つまり、周囲のみんなが普通だと思えば普通になるということ。「障がい」でなくなるんです。

「ああ、そういえばヤツは車いすだったなあ、いつも座って仕事してるからついつい忘れちゃったよ」みたいな、そのくらいでいいんじゃないでしょうか。例えすぐにはそうは思えなくても、障がい者の雇用は少しずつよくなってきています。今の障がいが、障がいとは思わなくて済む時代に、少しずつ近づいていけばいいですね。

 

profile 面川 英範(おもかわ・ひでのり
1971年いわき市小名浜生まれ。中央大学文学部卒。
94年郡山市立大槻中学校、いわき市立好間中学校などを経て、
2002年福島県立いわき養護学校に着任し、養護学校の教諭に。

09年にから福島県立平養護学校の教諭を務める。現在は同校の進路指導主事。

information 福島県立平養護学校
http://www.taira-sh.fks.ed.jp/
〒970-8001 福島県いわき市平上平窪羽黒40-45
電話:0246-24-2501

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。