INTERVIEW

地域に根付く、ということ

SPECIAL INTERVIEW
向山 聖也さん
いわきFC/NPO法人グリーンバードいわきチーム共同代表

いわきに暮らす人たちみんなが応援できるようなサッカーチームを作りたいと、2012年に「いわきFC」を立ち上げた向山聖也さん。チームの運営やジュニア世代のコーチングに汗を流しながら、実はその傍らで、まちなかの清掃活動をする「NPO法人グリーンバード」のいわきチームも運営しています。活動に通底するのは「地域に根付く」ということ。向山さんは、2つの活動を通じて、どのようにいわきに根付いていこうと考えているのでしょうか。

 

いわき市を拠点に運営されている「いわきFC(いわきフットボールクラブ)」は、2012年に向山さんが立ち上げたサッカーチーム。いわき市在住の会社員たちが中心になって組織されており、休日や夜間の時間に練習を重ね、週末に組まれているリーグ戦に参戦しています。今年は「福島県社会人サッカーリーグ3部東」に所属し、見事1位で今年のシーズンを終えました。来年は県2部に戦いの場を移します。

サッカーというと「Jリーグ」を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、Jリーグはプロサッカーリーグであり、それとは別に、JFL(日本フットボールリーグ)を頂点とするアマチュアサッカーリーグが存在しています。いわきFCを例にすると、今年所属した福島県3部は一番下のカテゴリ。このまま順調にいけば、福島県2部→福島県1部→東北2部→東北1部→JFLと昇格します。もちろん、Jリーグへの参加が認められればJ3、J2、そしてJ1と上がっていきます。

福島県のチームでは、福島ユナイテッドFCが「J3」に参戦中。JFLには所属チームがなく、その下の東北社会人サッカーリーグ1部に、FCプリメーロ(郡山市)、バンディッツいわき(いわき市)、いわき古河FC(いわき市)が所属しています。その下のカテゴリにはさらに多くのチームが存在しており、いわき市にサッカーチームが少ないわけではありません。向山さんは、なぜそれらの他のチームの門戸を叩くのではなく、ゼロからチームを立ち上げることを選んだのでしょう。

いわきに帰ってきたのが2012年の2月でした。もともとは、チームを立ち上げるつもりは全然なくて、いろいろなチームを見て回ったんです。けれど、ぼくがやりたいと思っていたものとは違うなと思ってしまって。それで6月に自分で立ち上げることになりました。知り合いや兄弟の友人なんかにも声をかけて集まってもらって、忘れられませんね、6月24日に最初の練習をしたんです。最初から「いわき市に根付くチーム」を作りたいと思ってましたし、それは今も変わりません。

地域リーグって、どこもそうかもしれませんが、チームを立ち上げるときにはどうしても所属していた高校のOBが主体になりがちで、立ち上げた後も「どこどこ高校OBチーム」というイメージになってしまいがち。すると他の高校を卒業した人たちが入りにくかったりして、地域全体の一体感を作りにくくなってしまうんです。いわきFCという名前にしたのも「いわきのチーム」だということを訴えたかったからです。

最初はこの名前に対してネガティブな意見も多く寄せられました。なに勝手に「いわきFC」なんて名前をつけてるんだ、いわきの代表ぶるなみたいな、そういう意見もありました。参加してくれた選手も、チームのビジョンに賛同して参加してくれた人がほとんどだったのに、「いわきFCは他のチームの選手を不当に引き抜いている」なんてクレームもありました。とても悔しかったですよね。

でも、やっぱりぼくには理想のサッカーチームというのがあったし、自分自身も含め、いわきに暮らす人たちが「応援したい」と思えるようなチームにならなければいけないと思ってきましたから、名前も「いわきFC」以外にはあり得ませんでした。いわきという土地に根付くために何ができるかを考え続けてきた3年間でしたね。

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いわきFCの皆さん。今シーズンは福島県3部を1位で終えた。

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チームの代表を務める向山さん。さまざまなポジションをフレキシブルに動き回る。

—プレイするだけではない、サッカーの魅力

向山さんが思い描く理想のサッカーチームがある。大学時代に所属した神奈川県3部リーグのチームだ。しかし、向山さんが自ら望んでそのチームに所属したわけではない。チームでの日々は、向山さんにとって「挫折」と常に隣り合わせだったという。向山さんが挫折の中で見つけた「理想」とはどのようなものなのだろう。

湯本高校時代に主将として全国大会への出場を経験して、もっとレベルの高い環境でサッカーしたいと思って神奈川大学に進学しました。いずれはプロでやりたいと思ってましたからね。でも、いざ大学に入ってみたら、サッカー部の入部試験に落ちてしまって。そのあとも入部を直訴したんですが、結局入部できず、ほんと腐ってました。サッカーするために大学に入ったのに、サッカーできないなんて思ってもみなくて。完全に目標を失ってました。

そんなときに友人からたまたま声をかけられて、神奈川県3部の社会人チームに入りました。県3部ですからレベルはそんなに高くない。でも、不思議だったのは、試合になるとたくさんの人たちが応援にやってくるんですよ。なんでこんな下のカテゴリのチームなのにこんなにたくさんの人が応援にくるんだろう、すごいなって思ってました。

実はそのチームのメンバーは、日本代表の応援をはじめ、視覚障がい者のための「ブラインドサッカー」などのサポートをしていたんです。支援活動なども積極的にやっていました。そういう活動がたくさんの方々の共感を得て、活動を通じて出会った人たちが積極的に試合にやってきて応援してくれるんです。本当にみんな楽しそうでした。そのときでしたね、ああ、こういうサッカーもあるんだなって気づいたのは。

それから、大学時代は自分たちでフットサルの大会を企画したり、日本代表の応援をしたり、プレーすることとはまた別のサッカーの楽しみ方というんですかね、それに没頭してきました。でも、当時ぼくが住んでいたのは神奈川なので、所属していたチームではどこか本気になれないところがあって。やっぱり自分はいわきの出身だから、いわきにチームがなくちゃいけないなって思ったんです。だから、いわきFCの立ち上げも、単純に「自分が応援したくなるチーム」を作りたいという思いから始まったような気がします。

地域の人たちに「応援したい」と思ってもらうには、やっぱり地域との接点を作らなければいけないし、地域に開かれたチームでないといけません。そのためにまず何ができるだろうと考えたときに出てきたのがゴミ拾いだったんです。

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グリーンバードいわきチームとソーシャルスクエア内郷が合同で行った内郷駅前の清掃活動の模様。

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ソーシャルスクエア内郷の北山代表(右)もグリーンバードいわきチームの共同代表に就いた。今後さまざまなコラボを進めていく予定だという。

—地域に根付くための「清掃活動」

地域に根付いたサッカーチームをつくりたい。そんな思いから向山さんの清掃活動は始まりました。そこに、たまたま高校時代からの友人から声をかけられ、ゴミ拾いから社会問題を考えようという「NPO法人グリーンバード」の存在を知り、向山さんが中心になり「グリーンバードいわきチーム」が立ち上がりました。これまで数十回も、いわき駅そばの清掃活動を行っています。

特別な活動ではなくて、単純に自分たちの地元の現状を知るためにも、ゴミ拾いは面白いかもと思ってやってきました。それに、チームや同世代のみんなと朝早起きしてゴミ拾いするとけっこう楽しいんです。でも、やっぱり自分たちの住んでいる町にゴミが散乱しているのを見るのは悲しいですよね。なにも知らない他人が勝手に捨てていったゴミを、ぼくらが拾い続けないといけないのかと暗い気持ちになることもあります。いつまでも追いつかない鬼ごっこをしているような感じで。活動には子どもが参加するときもあるのですが、大人のゴミを子どもが拾うっておかしいじゃないですか。

でも、続ける中で、いろいろな人たちとの関わりも生まれました。今年はソーシャルスクエア内郷さんと合同で、内郷駅前の清掃活動もできました。今までとは違った分野で活動している方たちと一緒にやることで、お互いに自分たちの活動内容について知ってもらう機会になるし、いろいろな新しい発見につながります。地域に根付くって、きっとそういうところから生まれるんじゃないかと思うようになりました。

そのコラボレーションがきっかけになり、ソーシャルスクエア内郷の代表を務める北山剛さんが、グリーンバードいわきチームの共同代表になって頂くことになりました。北山さんの「地域に対して開かれていく」という考え方は、グリーンバードとも、そしていわきFCとも共通しています。今後、いろいろな形でコラボレーションできればと考えています。

ゴミ拾いって、とっても単純なんですけど、自分たちの住んでいる町のことがよくわかるし、地域の人たちの顔も見えてくるんです。そこで「社会の一員」としての自覚が芽生えるというか。会社や所属先だけじゃなく、地域の一員としての自覚が出てくることはサッカーチームとしての大事なことだと思いますし、もしかしたら、そこに暮らす一人ひとりが持つべき思いなのかもしれません。そういう体験を通じて、「自分たちの町のことは自分たちで少しずつよくする」みたいな、自立の意識が生まれてくるんじゃないかと思います。

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いわきFCのサッカー教室ではコーチを務める向山さん。コーチ、選手、そして代表として多忙な日々を過ごしている。


インタビューに答えて頂いた向山さん。スポーツの分野でいわきを盛り上げるキーパーソンの1人だ。

—強いジュニア世代を育てること

自らもプレイヤーとして参加するチーム運営と、グリーンバードの活動以外に、向山さんが最近とくに力を入れているのがジュニア世代の育成。いわき市は、特に小学校低学年以下の育成環境が整備されていないといいます。指導者の数が足りないことが大きな原因です。しかしそれでは「いわきのサッカーの底力がついてこない」と向山さんは警鐘を鳴らしています。

いわきは小学校低学年の世代向けの大会がないので、どうしても試合の機会が少なくなりがちです。県内の他の地域だと毎月1回くらいは試合があるんですが、いわきには根付いていないのが現状です。一口に「小学生」といっても、低学年と高学年では対格差がありますから、高学年は高学年の、低学年は低学年の試合があるのが望ましいんですね。

でも、どうしても予算に限りがあるし、指導者の数を急激に増やすわけにはいきません。チームに指導者が1人しかいないと、試合の多い上級生を優先せざるを得ず、低学年の大事な時期にしっかりと練習できないんです。それで、低学年の指導が疎かになってしまう。でも、低学年に何を習得するかってとても大事です。

ところが日本ではコーチの皆さんのほとんどはボランティアです。スポーツ少年団だと、コーチが児童のお父さんだったり、熱心なサッカー好きの方が指導者をやってることも多いんです。月々数千円の月謝では、コーチの弁当代や交通費、練習場所をおさえるための費用で終わってしまいます。これって全然持続的じゃないですよね。コーチが病気になったら終わりですから。ぼくが中学校のときに所属していた「エスペランサいわき」というチームも、今では廃部になってしまいました。

いわきのサッカーのレベルは年々下がっています。それには、低学年向けの指導体制が整っていないという理由が大きいと思っています。全体的にレベルが下がると、抜きん出た選手は流出してしまいますし、県内の強豪校を目指すことすらも諦めてしまう。例えば、全国レベルの強豪校である郡山市の尚志高校の選手の多くはすでに県外出身の選手がほとんどです。「強豪校に行ってもレギュラーになれないや」と思ってしまう時点で、県内の選手は気持ちで負けてしまっているんです。

そこをなんとかしたいと思って、低学年向けのサッカースクールを始めました。止める、蹴る、運ぶという基本の技術を徹底して教えています。スクールのコーチはぼく1人なのでまだまだ理想の体制にはなっていませんが、少しずつ手応えを感じてきているところです。

そして、小学生のうちからサッカーを通して地域と関わっていくことを少しずつ知ってもらえたらと思いますね。そうしたら、まちなかで平気でゴミを捨てる大人は少しずつ減っていくような気がするんです。やっぱりそういう活動を通じて地域の人たちの顔が見えるからこそ、試合で勝ちたいという思いは強くなるし、サポートしてくれる人たちへの感謝の気持ちも生まれてくるような気がしますね。

いわきにスタジアムができて、そのスタジアムに老若男女が集まり、一緒に試合を楽しんで、選手たちと喜びも悔しさを分かち合える。それが理想のチームのあり方です。ぼく自身、未だに模索の連続で、「地域に根付くこと」について答えが出たわけではありませんが、地域のサッカー文化を底上げしながら、より地域に関心を向けられる場を作り続けたいと思いますし、その繰り返しの先に、もしかしたらJリーグが見えてくるかもしれませんね。

 

profile 向山聖也(むこやま・せいや)
1988年生まれ。いわき市中央台出身。いわき市立中央台南中学校卒業後、
福島県立湯本高校を経て神奈川大学人間科学部へ進学。大学卒業後、いわきへUターン。
2012年スポーツの「する、みる、支える」をもっと身近にするためにいわきFC設立。
2013年には、NPO法人グリーンバードいわきチームを立ち上げ。現在に至る。

infomation いわきフットボールクラブ(いわきFC)
http://iwakifc.jp/
所在地:福島県いわき市中央台高久3-23-8
mail:info@iwakifc.jp
電話:0246-38-5429

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。