GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

幸せな世界には「果物」があるはずだ

片山 和洋さん

「農家だけど農家じゃない」。ハナウタカジツの代表・片山和洋さんがどういう人か聞くと、大体そんな答えが返ってきます。いつもどんな事でも面白がり、農業の枠を超えて関わってきてくれる。そんな片山さんの話を聞くと、これからの時代を生きるヒントが見えてきました。

グラデーションが美しい桃、小ぶりながらも甘みと酸味の美味しさが秀逸の金柑。これらを作っているのは、農業大国であるここ熊本でも、他の農家とは一線を画しているであろう『ハナウタカジツ』です。後継者不足、自然災害の恐怖など、昨今の農業界では様々な課題が謳われていますが、そんな農業の世界にいながら自然体で仕事をしていて、農家であるはずなのにまるでそんな気配を感じない凄みのある人。代表の片山和洋さんはそんな人です。最近では全国的にも注目が集まっている『熊本クラフトコーラ』の制作にも携わった片山さんのお話を伺いに、会いに行ってきました。

片山:実を言うと、小さな頃から農家に良いイメージを持っていなかったんです。今でこそ、子どもを軽トラックで迎えに行ったりするんですが、思春期である中学生の頃の自分は、軽トラで迎えに来られるのが嫌で嫌で…。将来農業をやらないのならば、違った職業を選ばないとと思い、気づけばエンジニアになるための専門学校に行っていました。その頃に大きなスーパーでバイトをし、鮮魚の部門を担当していたんです。ある日、ただ魚を並べてるだけじゃなくて「寒くなったのでお鍋に良いよ」と言う工夫をするだけで買ってくれる事がありました。またある時は食品表示法が厳しくなったタイミングで、昨日まですごく売れていた魚介類に<アフリカ産>と付いただけで、お客さんの手が伸びなくなったという現象を目の当たりにしました。お客さんは国産・地元の物を求めているんだということに気づくことが出来たんです。その2つの現象は、自分があまり面白くないなと思っていた農業でも、やり方次第では面白くなるのかもしれないなという思いに結びつき、あれほど嫌がっていた農業の道に進むことを決心しました。それは同時に“跡を継ぐ”事を意味しました。

編集部:そんな片山さんが農業の道に進み、いい意味で普通の農家では考え付かない行動をやっていきます。その一つがSNSでの発信です。今まで農家の方というと“裏方”なイメージがあったんですが、片山さんがSNSに力を注いだきっかけはどこにあったのでしょうか。

片山:22歳で就農後、果物と向き合う日々を過ごしました。でも日を追うごとに「作る→食べてもらう」の繰り返しでいいのかなと思うようにもなったんです。結局は農家という職業は、極論をいうと非効率。自分がどれだけ頑張っても、自然災害や環境の変化によって失敗してしまう事もあるんですよね。すごく不安定だけど、それでも続けるのは手塩にかけて育てた物を「食べてもらう」事を知れたりする楽しみがあるからです。ただ「美味しい物さえ作っていれば、いつか口コミが広がって買ってくれるはず」という考え方には疑問を抱いています。というのも、今この瞬間に美味しい物が出来上がっていても、口コミが口伝えとなってある程度大きくなるまでにはすごく時間がかかっていて、本質は薄まっていき、正しい情報としての伝達は不可能だと思っています。

人が「いい」と感じた物事を伝えるのはとても良いことだと思っていますが、口伝えだけでは限界があります。その反面、InstagramやFacebookなどのSNS上では文字と写真で、情報が薄まることはありません。この方法で口コミを広げていけば、薄まらずにちゃんと伝えることができると思ったんです。実際に現在 Instagram上で「#ハナウタカジツ」の投稿が1500件以上存在します。これは自分たちの発信だけでなく、お客さんが発信してくれているんです。ちゃんと美味しい物さえ作っていれば、良いものはちゃんと伝わり広がっていくんだなと思います。

最近では熊本市内のフルーツパフェが有名な『FLAVEDO』や、各メディアでも取り上げられた『熊本クラフトコーラ』など、「ハナウタカジツ」の果物を使用している事を明記してくれていることが増えてきました。県内の飲食店と取引しているのは、商品を卸す事が目的ではなく、知ってもらうキッカケになる事なんです。名前を知ってもらう事で、その人がインターネット上で「熊本 桃」と検索するのではなく「ハナウタカジツ」と検索する事が狙いです。ネット検索に引っかからない=この世に存在しないと思っている若者もいるくらいですからね。


ハナウタカジツの果物を使用した熊本クラフトコーラ
クリスマスマーケット熊本2019でも、コーラが提供される予定

多くの果物農家は糖度が高く、農薬散布が少ない事をブランドの価値として謳っている事が多いんですが、台風のような自然災害などが起こると、糖度は下がり、ブランドの価値が容易に下がっていきます。これからの時代、その危険はどんどん大きくなると思うんですよ。そんな時に日本中の農家が糖度が高くて農薬散布が少ないもの、という2つの要素を持ってみんながそれに向かってブランド磨きを目指していくと、農家同士の仲は悪くなっていき、どんどん疲弊していくと思います。もちろん自分達も美味しくて安全な物を作りますが、「かわいくておしゃれ」という事をブランドの一つの要素として組み込んでいるんです。そうすると他の人が頑張っていても、自分達がまったく違うところを走ってるので「おう頑張れ!」と言えます(笑)。それがやり方として変えた大きな部分ですね。

「かわいくておしゃれ」をどこで表現しているかというと、例えばホームページ。デザイン云々という事ではなく、ただのオウンドメディアで終わらせていないんです。あらゆる人と自分が活動を共にした事を自分事のように記述しています。また、「ハナウタカジツってこんな人」というコンテンツを作り、私の好きな人たちに自分達の事を紹介をしてもらうという事もしています。それは飲食業の人もいれば占い師に至ることも。その人たちが可愛くてお洒落=ハナウタカジツもそうであると思ってもらえる事はとても効率が良いんです。また、そんな人たちの言葉で伝える事で「この人が言うのなら、いいかも」と思ってもらえるし、他人のブランディングに染まらせてもらう事が出来るというわけです。

編集部:考え方・方法を変えていき、生き生きと「農業」という枠からはみ出した片山さん。とはいえ、本職は農家。これからの時代をどう生きていこうと思われているか教えてください。

片山:実際問題、果物って食べなくなっているんです。皮をむくのがめんどくさい、お腹を満たすならご飯でいい、ビタミンを摂るならサプリメント飲む、お金が無いなら果物を買わなくていい。ただ、その現状にしょんぼりしているだけだと、この業界は終わります。そこで自分は、果物でありつつも「果物ではない存在」になった方が競争に勝てると思っています。例えば「朝からハナウタカジツの桃を剥いて食べたい」と言いたい、と思わせる事。それは果物じゃなくてもいい訳で、果物同士の競争ではないんです。

自分の人生を振り返った時に、果樹農家にとっては致命的なほど飽きっぽい性格の私が、これまで農業を飽きずにやれているかというと、小さな頃いろんな職業になりたいなと思っていたことを、今つまみ食いしながら経験できているんです。これが本当に楽しい!カフェで使ってもらえれば、カフェ屋になれた気がして、サイトを作れば、デザイナーになれた気がする。小さい頃の夢を農業を通して叶えているので、毎日飽きずに頑張れているんだなと思っています。自分は出来ないけど、やってくれている人と一緒に何かを起こすことで、それを成し遂げる感覚を味わえる。ハナウタカジツという器の中で、いろいろごちゃまぜにしていき、選択して整理していく。これって結構楽しい人生だと思いますよ。

農家をやっていると「果物で世界を幸せにする」という考えになりがちなんですけど、これって結構おこがましい部分があると思っています。果物は絵具であり、彩りを与える物。「果物が世界を幸せに」ではなく「幸せな世界には果物があるはずだ」という事です。その付加価値を与える物として、ハナウタカジツも存在していたいですね。

片山 和洋(かたやま・かずひろ)
ハナウタカジツ代表。熊本県熊本市植木町出身。2児の父。22歳より実家の農家を継ぎ、『ハナウタカジツ』という名前で始動。現在、県内の様々な飲食店に果物を卸している。

ハナウタカジツWebサイト:https://hanautakajitu.jp/

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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