障がいを持った人たちをいかに雇用し、やりがいを持って働いてもらうことで自立に繋げていくのか。日本全国の企業で模索が続いています。今回取材したのは、日本と中国に1300を超える店舗を持つ、いわき市のグローバル企業「ハニーズ」。ハニーズハートフルサポート代表取締役で、ハニーズの人事部長も兼務する佐藤成展さんに、同社の障がい者雇用の取り組みについて話を聞きました。
昨今の障がい者雇用で、1つの大きなキーワードになっているのが「特例子会社」。障がい者の雇用においては、従業員50名以上の会社は全体の2.0%以上の障がい者を雇用することが義務付けられていますが、会社の事業主が、障がい者に特別な配慮をした子会社を設立し、要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている障がい者を親会社全体で雇用されているものとして数えてよいことになっています。このようにして設立されたのが特例子会社です。
ハニーズでは、平成25年(2013年)に、特例子会社であるハニーズハートフルサポートを設立。2016年5月末現在、鹿島のハニーズ本社内と、常磐の物流センター内の2カ所ある事務所で18名を雇用。障がいに合わせた業務を切り出し、それを任せることで業務の効率化を図っています。そこに、ハニーズ本体で雇用している障がい者24名が加算されるため、いわき市内の事業所で42名、さらに店舗に勤務する4名を加え全体で46名。それにより、ハニーズ全体の雇用率は2.4%になります。
特例子会社であるハニーズハートフルサポートでは、主には物流センターの清掃、洋服の検品・お直し、それから本社の事務補助などの業務をしてもらっています。ハニーズ本体の物流センターでは、海外から入荷する段ボールで梱包された商品の荷受け、整理や、ECサイトで購入されたお客様への配送の補助などですね。皆さんやりがいを持って業務に当たってくれています。
特例子会社を立ち上げたときに、従業員に対して、ハートフルサポートの従業員に任せたい仕事があるかどうかアンケート調査をしたことがあります。各部署からポツポツと集まってきたアンケートを見ると、意外と色々な部署で効率の悪い業務が見つかって、「こんな仕事をこの部署でやっていたのか」とか、「この仕事は別の人たちに任せたほうが良いな」いうような新たな発見になりました。
ハートフルサポートの従業員に仕事を切り出すということを通じて、個人や部署の業務をさらに効率化できたということなんだと思います。客観的に自分の業務を把握するためにも、子会社の設立はプラスに働いたと感じています。実際には、まだまだ切り出せることがあると思いますので、もう一歩、この業務の切り出しを進めて、障がいのある方にもどんどん仕事を任せていきたいと考えています。
厳然とした基準として存在する「法定雇用率」。同社も、障がいのある従業員を採用し始めた当初は「数字」を追い求めたといいます。しかし、数字を追い求めるだけでは、従業員がやりがいを感じることは難しいと佐藤さんは語ります。一人ひとりに合わせた業務を切り出すために重要なのは「地域との連携」だといいます。
数字の「雇用率」を増やすだけではなく、障がいを持っている人たちが「自分の仕事が誰かの役に立っている」、「会社の戦力になっている」という感覚を持ってもらうことが大事です。それには、一人ひとりの障がいに向き合い、その人の個性にあった仕事を任せなければなりません。
そこで重要なのが、特別支援学校や障害者就業・生活支援センターや、就労移行支援事業所との連携です。やはりその人の性格や特性などを深く理解しなければ、任せるべき仕事も見えてきません。就労移行支援事業所からは「ナビゲーションブック」というものを渡してもらいます。そこには、一人ひとりの特徴や性格、仕事等で配慮すべき点などが書かれているのですが、1つの企業だけでなく、地域の教育・福祉に関わる皆さんで支えていくというイメージですね。もちろん、ハローワークと連携していくことも重要です。
そうしてフォローしながら少しずつ慣れてもらうことで、現場の従業員もその障がいや特性を理解し、「あの人ならこんな仕事も任せられるんじゃないか」、「あの人にこの仕事を手伝ってもらいたい」という、仕事の切り出しの意識が従業員にも芽生えていくのではないかと思います。
—いわき障害者職親会との出会い
今でこそ、法定雇用率も超え、障がいのある方が働きがいをもって仕事に打ち込める環境が少しずつ整ってきた同社ですが、以前は、雇用率という数字ばかりを追ってしまった過去があったそうです。問題解決の糸口となったのが、いわき市障がい者職親会との出会いだったそうです。
ハニーズは、2003年に上場後、ものすごいスピードで店舗数を拡大していきました。常用雇用者もどんどん増えていき、それに合わせて障がい者を雇用する必要があったため、どうしても「数字を達成する」ことを追い求めてしまいがちでした。もちろん上場企業として「数字」を追い求めることは大変重要ですが、なかなか障がいのある従業員の能力や特性を引き出すというところまでは達していなかったように思います。
というのも、弊社の店舗の場合は、駅ビル・ファッションビル・大型商業施設にテナントとして出店しており、坪数も50〜80坪と大きくなく、バックヤードスペースもほとんどありません。つまり、障がいを持つ方に店頭に立ってもらわなければならないということです。そこで何かしらのミスがあったときに、障がいのある従業員をフォローできるようなベテラン従業員も少なく、若い従業員女性店員が多かったため、店舗で採用した障がいのある従業員が長続きしないケースが発生しました。
弊社のようなビジネスモデルで障がい者雇用を促進するためにはどのようにしたらよいかと考えたときに、様々な情報を頂けたのが、いわき市障がい者職親会でした。特別支援学校など教育の現場、就労支援の立場から様々な情報を頂くことができるようになり、先進的に障がい者雇用に取り組んでいる企業や、同じような課題を抱えている企業からお話を伺う機会が増えました。
また、職親会では他県への視察や先進的に障がい者雇用に取り組んでいる企業の経営者の方を他県から招き、講演を頂く機会もあり、いろいろと勉強させて頂きました。徐々に弊社の問題も少しずつクリアされ、現在のような体制まで持ってくることができました。その意味でも、障がい者雇用というのは、企業で努力することはもちろん、関係機関や企業同士で情報を共有していくことが非常に重要であると感じています。
—多様な従業員が働く環境を作ることが、会社の成長にもつながる
2007年から障がい者の雇用に関わるようになった佐藤さん。現在も、人事部長としてすべての従業員の採用や雇用に関わるようになりましたが、そもそも障がい雇用や社会福祉に高い関心があったわけではなかったと言います。様々な見方が生まれ、佐藤さんを少しずつ変えていったのでしょう。
ハニーズに来る前は、百貨店に勤めていたんです。婦人靴や婦人服の担当でしたが、実は障がい者雇用が会社に義務付けられていることや、法定雇用率があることすらわかっていませんでした。実際には障がいを持った人たちは採用されていて、仕事をお願いするケースもあったのですが、大変失礼な話、「なんでここで仕事してるんだろう」くらいの感覚しか正直ありませんでした。
しかしこうして障がいのある人たちを雇用する立場となり、真剣に向き合うことによって、身体や心に何らかの障害があったとしても続けていける仕事がある、またその仕事を創っていくということが、いかに重要かを毎日痛感するようになりました。
重要なことは、多様な人たちとコミュニケーションを取りながら業務に当たるというのは、私を含めた従業員1人ひとりのコミュニケーションスキルの向上にも繋がるということなんです。聴覚障がいを持つ従業員のいるグループには、よりよいコミュニケーションができるようにと、自ら手話を学び始めた従業員もいます。それだけ成長の機会がある、ということなのかもしれません。
もちろん、障がい者を雇用することは企業の責任です。しかし、だからといって数だけ追い求めいても意味がありません。職親会は「ともにはたらく、ともにかがやく」というテーマを掲げています。障がいの有る無し関係なく、一緒に働く仲間のことを理解し、お互いが効率よく仕事をする、してもらうにはどうすればよいかと、各従業員が意識していくことが重要だと思います。その結果、会社はより良い方向に発展するのではないかと思います。弊社もまだまだできていない部分もあるので、今後も努力していきます。
profile 佐藤 成展(さとう・しげのぶ)
1975年新潟県十日町市生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。
株式会社伊勢丹(現三越伊勢丹)を経て、2005年より株式会社ハニーズ入社。
ハニーズ入社後は採用・人事労務管理に従事し、現在に至る。
GochamazeTimesCompany
全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。
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