GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

おしゃれな緑のビブスを着てゴミ拾いをする「グリーンバード」。そのグリーンバード熊本チームのリーダーを務める東 広大さんは、熊本市役所の職員として、また一市民として公私ともに様々なまちづくり事業に携わってきました。現在はまちづくりとは異なる部署に移り、プライベートではグリーンバードを中心に活動されています。そんな東さんに、まちづくりに対する想いや今後の活動についてお話を伺いました。

東さんは熊本で、特に健軍(熊本市東区)や街(熊本市の中心市街地)で様々な活動に携わっていますよね。どういったきっかけでグリーンバードやまちづくりに関わるようになったんですか?

:きっかけは色々とありますが、まちづくりに出会ったのは役所に務めてからです。ただ、元々は役所に長く勤める気も、まちづくりへの関心もさほど無かったんですよ。学生時代まで遡ると、高校生のとき単純にやりたいことがなくて、卒業後はアルバイトをしながら「本当にやりたいこと」を探すフリーターでした。ただ、私は断れない性格なので、バイトを始めたらどんどんシフトが詰まっていったんですよ。やりたいことを見つけるためにフリーターになったのにアルバイト漬けの毎日でした。

そんなフリーター時代に、たまたま熊本市職員の採用試験があるよと母親に勧められました。そこで、「あれ。公務員って給料安定して、就業時間も休みも決まっているよな」と思い、自分のしたいことを探すのにもってこいの環境だと気がつきました。当時は全く・・・、というと語弊があるかもしれませんが、熊本市のためとか市民のためにという発想はなかったです。今思うとかなり邪(よこしま)な動機で入職していますよね。後々この話を誰かにしたところ、「腰掛け公務員」と呼ばれるようになったんですけど(笑)

採用試験を経てなんとか市役所に採用してもらって、たまたま中央区役所のまちづくり推進課というところに配属となりました。ただ、一年目からバリバリまちづくりに関わっていたわけではなく、事務的な仕事を全うしていたという感じです。プライベートでは、カメラを購入して阿蘇山や近所の江津湖を撮りに行ったり、パソコンを購入してプログラミングを勉強していました。当初の狙い通り、やりたいこと探しができて「よしよし」と思いながら黙々と仕事をしていましたね。

転機があったのは2年目です。当時、青少年育成事業という子どもたちのための活動をサポートする仕事をしていました。そのとき、まちづくり推進課の上司から、活動写真の撮影に行ってみたらと提案を受けたんです。写真のスキルアップは自分のためになるので良かったのですが、正直当時は面倒臭い気持ちもありました。休日出勤ですしね(笑)

前向きな気持ち半分と後ろ向きな気持ち半分でしたが、写真の撮影を終えて後日職場に写真を持っていくと、予想以上に職場で褒めてもらいました。その時は素直に嬉しく、自分が認められたように感じました。今まで風景を撮って自己満足というのが当たり前だったので新鮮でしたね。ただ、そこで「まちづくりが楽しい!」となったわけではなく、誰にでもあるような、ほんの小さなきっかけだったかなと思います。小石が水面にぽとんと落ちた瞬間って感じですかね。そこから波紋が広がり始めるんですけど。そこから毎週末は地域の活動に出かけるのが日課になったので、私の場合は写真を通じて少しずつまちづくりに関わっていったという感じです。

SOCIALSQUARE熊本店にて、お話を伺いしました。

−新しいまちづくりとの出会い

:グリーンバードに関わるようになったのは、当時まちづくり推進課で広報に携わっていたときです。グリーンバードが熊本市に事業提案したことをきっかけに取材することになりました。その時に「おしゃれなビブスだな」とか、「若い人とか企業さんも関わっているんだ」とか、自分が思っていたゴミ拾いと違う印象を持ちましたね。今まで自分が関わってきたまちづくりともちょっと違うなと感じました。まちづくり推進課で行うまちづくりって小学校区ごとに企画、運営しているのですが、グリーンバードの場合は校区が関係ないので当時は新鮮でした。ただ、そこからグリーンバードに頻繁に通うかというとそうではなく。その時は、取材で行ったり、たまに遊びに行く程度の関わりでした。

話は一転しますが、その後、中心市街地の空き店舗対策事業「seed Market(シードマーケット)」という事業に携わることになりまして、これからお店を始めていきたい方たちと協働して、公共空間を活かしたマルシェを運営することになります。商店街の視点から見た商業分野のまちづくりはまだ経験がなかったので大変でしたね。ただ、事業に主体的に関わることで、徐々にまちづくりや熊本市のために働く魅力を感じていったと思います。同時に、まちづくりに関わることや熊本市のために働く魅力を他の職員にも伝えたいと考えるようになりました。

ただ、魅力を伝えたいと思うものの、出店者さんとのやりとりをしたり、道路の使用許可を得るために警察と交渉したり、商店街の人の同意を得たりとかは入り口としてハードルが高い。そこで、取材させて頂いたグリーンバードのことを思い出したんです。ゴミ拾いって気軽に参加できますよね。また、行政も民間も関係なく、ごちゃまぜでやりたかったんです。あ、ごちゃまぜ出てきましたね(笑)

役所の職員って内輪で何かをすることはあっても、仕事を抜きにして民間の方達と一緒に何かをする機会が少なかったように感じたんですよ。それに、当時は行政と民間の関係性って個人的にあまり良いイメージがありませんでした。そこで、一緒にゴミ拾いをして等身大で関わってみたら同じ人間なんだって気づきあえるんじゃないかって思ったんです。そうして役所内でボランティアサークルを立ち上げたり、職員から募った寄付でチラシを作ったりして、グリーンバード の活動の一環としてごちゃまぜの清掃活動をしたんです。結果、その時のグリーンバードは100名近くの方に参加して頂きました。このときは、若気の至りで「熊本の歴史に名を残した」って思うくらいの達成感がありましたね(笑)

当時はグリーンバードに対して、こういった外からの提案者のような立ち位置で関わっていました。3ヶ月に1回くらいの頻度でゴミ拾いに参加して、自分のしたいことがあったら提案するみたいな。そんな関わりが続くなか、ある日突然熊本チームのリーダーから、「そろそろ引退しようと思うから東くんリーダーならない?」とお誘いを受けたんです。最初のうちは外から提案するくらいがちょうど良いと思って1年くらいお断りしていました。結局は引き受けたんですけど(笑)

きっかけは、熊本地震からほどなくしてグリーンバードの理事長が熊本に駆けつけてくれたときでした。当時は地震の対応やNPOの活動でほとんど家に帰れない状況だったんですよ。そういった状況だったので、楽しくご飯食べる機会なんてほとんどありませんでした。そんななか、理事長や熊本チームのリーダーと久々にお酒を飲んで、美味しいご飯と楽しいお話をして陽気な感じになったもんで、ついついリーダーを引き受けることになったんです。正直、翌日起きたときに「やっちゃったー」って思いましたよ(笑)

リーダーになって今年で3年目になるという東さん。熊本チームは毎週水曜日に中心市街地または健軍でゴミ拾いを行なっている。

−まちづくりで感じた壁

東さんはこれまで様々なまちづくり事業に携わってきたと思いますが、その上で今後の熊本でのまちづくりについてはどのようにお考えですか?

:ずっと校区単位のまちづくりに携わってきて、コミュニティというのは本当に大事だと感じました。熊本地震の時は、校区単位のコミュニティがあったから乗り越えられた部分があったと思います。避難所の運営など役所の職員だけでは到底運営できませんでした。その経験から、今でもコミュニティが大事だと思っています。一方で、まちづくりに関わる方には「コミュニティをつくる」というのは結果論に棚上げしてほしいなと考えています。

というのも、例えば私が県外から◯◯校区に引っ越してきて、「じゃあ東さんは◯◯校区の住人なんだから、このコミュニティのために何か活動してください」と言われたとします。そこで校区内の人と馬が合えば良いですけど、引っ越してきた人全員が合うかというと、上手くいかないこともあると思うんです。そう考えるといきなりコミュニティを押し付けるのは、もったいないなと。せっかく違う地域から来てくれているのに、やりたくないことを強制されて、来なきゃよかったと思われたら本末転倒ですよね。コミュニティは大事ですが、「コミュニティが大事」って直接的に言い過ぎると、コミュニティが廃れると思っているんです。そこがコミュニティづくりの難しさだと感じています。

では、どのようにしてコミュニティをつくっていけば良いのかと考えていた時に、「アソシエーション」という概念に出会いました。きっかけは数年前、千葉県松戸市で活動をされている、『まちづクリエイティブ社』の代表とお会いしたことです。その方とSNSで繋がって投稿を覗いた際に、その方が書いたアソシエーションについての記事を見つけました。

その記事には、「アソシエーションはコミュニティの対義語」といったことが書いてあったんです。「コミュニティ」はある区域があって、そこに所属している人たちの集まりを指す。一方、「アソシエーション」はどちらかというと、共通のものを持った人たちの集まりとのことでした。「んー、なるほど。」と思った一方で、でもアソシエーションって内輪だけで閉ざされたものなのかなって疑問に思った部分もあったんです。だから、アソシエーションって広がらないんじゃないかなって。ただ、よくよく記事を読んでいたら自分の中で考えが深まってきて、確かに最初誰かと誰かが繋がる時って何か共通項があるよねって思うようになりました。

熊本の場合わかりやすいのが、「出身の高校どこ?」ってやつです(笑)同じ高校というだけで仲良くなる。これって共通項があるから仲良くなるんだろうなーって。でもそれ以外でも確かにそうで、音楽とかゲーム好きで集まりができたりするし、サッカーが好きだから野球が好きだから集まる人たちがいる。「人と人が繋がる瞬間って、なんらかの共通項が必ずあるな。」って気づきました。人って1つしかコンテンツを持っていないのかというとそうではないと思います。

例えば、◯◯高校出身で、実はサッカーが趣味で、こういう仕事していますとか。掘り下げていくとその人はいろんなコンテンツを持っているわけですよね。いろんな共通項を通すと一人の人間でもいろんな集まりに所属できることになります。そう考えるとたくさんの方が無意識にでも直接的・間接的に繋がっているということに気がついたんです。その上で、まずはこのアソシエーションというのをどう増やしていくか、つまり、同じ共通項を持った人たちが繋がれる環境をどう増やしていくかを考えることが大事だなと思うようになりました。

そしてアソシエーションが増えた結果、それぞれが網目みたいに絡み合って個人個人が直接的・間接的に繋がっていく。その網目こそがコミュニティじゃないかなと思うようになりました。だから「コミュニティをつくる」というのは結果論に棚上げしてほしいなと考えるようになったんです。限界はあったとしても、孤立を生まない仕組みをいろんな角度・方法で強化していくコンテンツ作りが大切なのかなと。

グリーンバードは、そういったアソシエーションとしての1つのコンテンツにしたいと思っています。グリーンバードはあくまで共通項の1つなんです。「ごみ拾い」という誰でもできてなんとも響きのいい理由付けをしておきながら、実は楽しい出会いの場になればいいなと。緩く、参加者が楽しいと思える場をつくりたいと思って運営しているのも1つのコンテンツとして捉えているからです。

多分、この感覚をなくしてしまったら、ゴミを拾うことが目的になってしまって、「ゴミ拾わんかー!」ってなってしまうかもしれません。それこそコミュニティを押し付けるようなことになってしまい本末転倒ですね。必要ないのにわざわざ学校終わりや仕事終わりに参加してくれて、楽しみつつも少しでも街が綺麗になるというのに・・・。アソシエーションの概念が広まるためには、運営側が、「自分たちの活動が良い」ではなく、「自分たちの活動も良い」って思えるようになることが大事かなと思います。

前リーダーの時から続いている、地元ラジオ番組「FMK BEAT MAX」とのコラボは21回目。パーソナリティもリスナーもごちゃまぜになってゴミ拾いをしている。毎回50名以上が参加。

アソシエーションだのコミュニティだのお話してきましたが、お伝えしたいことは、「どちらも大事」ということです。地震の時に活躍したような広い地域のコミュニティも大事ですが、共通項を持った人たちのアソシエーションも大事ということを言いたいだけで、「どちらも大事」なんです。歯車で考えると、アソシエーションという小さい歯車がたくさん連動しあって、結果的にコミュニティという大きな歯車が動いている状態なんだと思います。逆にコミュニティづくりで上手くいっていないときって、小さい歯車が見えていない状態かなって思っています。

−リアルからインターネットの世界へ

まちづくりに対する考えや想いを話して頂きましたが、東さんは最近まちづくりに関わる活動を控え、プログラミング学習に集中しているとお聞きしました。なぜプログラミングなのでしょう。

:この時代はインターネットの知識がないと戦っていけないなというのは一つありますよね。入職当時に話を戻すと、なんとなく役所で働き続けるというよりも自分でやりたいことを見つけてやっていくつもりだったので、これからの時代、自分にとってプログラミングは必須のスキルだと思っています。

ただ、始めたのにはもう1つ理由があって。単純にSNSの仕組みがどうなっているのか気になったんです。SNSを使い始めた当時、仕組みがわからない状態で使うことに抵抗がありました。そこで、独学で調べながら自分でSNSを作ってみることにしたんです。気になりだしたらとことんやるタイプなので(笑)調べながら実際にSNSを作ってみて、ある程度の技術的な仕組みの理解ができました。すると今度は、「なんでFacebookとかTwitterはグローバルに広まって、いろんな人が利用するようになったんだろう」と考えるようになりました。

そしてその疑問は、「どうやったら地域の人たちが参加してくれるんだろう」と考えていたまちづくり事業と規模は違えど根本は似ていることに気がついたんです。どちらも結局は「人を巻き込むため、選んでもらうための設計」がミソなんです。東京の表参道から始まったグリーンバード が九州の熊本でも展開できて、さらには世界中に広がっているのもそういうことなのかもしれませんね。

インターネットでの繋がり方を学ぶことは、リアルでの活動にも活かせる。逆にリアルでの活動を通して人間の心理を学んだことは、インターネットの世界にも活かせるなと思いました。また、SNSを通じてブランディングを学ぶことが多いのですが、インターネットの世界でブランディングできたことってリアルな世界でも活かせますよね。逆にいうとリアルな世界での影響力って基本的にインターネットの世界でも活かせるんですよね。

そんなこんなで今後は、インターネットでの活動、リアルでの活動を一緒にやっていかないといけないって感じています。今までは、ゴミ拾いやマルシェ開催などリアルでの活動に重きを置いて幅広く行ってきました。そうやって人に影響を与えるための仕組みを学んできました。次は、リアルで学んだことをインターネットの世界で応用する術を獲得しようと考えています。

さらに今後はインターネットの世界で学んだことをリアルの世界で応用しようと。組織に限らず個人においても、こうやって先を見据えて戦略を考えて行動していかなければという気づきがありました。自己ブランディングというんですかね。SNSの仕組みを理解した今でもプログラミングの学習意欲が冷めないのは、こういった新たな「気づき」があったからかなと思います。

−より良いものを創るために「余裕」を持つ

自己ブランディングの話が出ましたが、東さんご自身はこれからどのような活動をされていく予定ですか?

:それを聞かれると非常に困るのですが。実は今、活動の幅を広げようという気持ちが一切ないんです。地元の健軍というところでも「健軍特区」という団体を立ち上げてまちづくりに関わっているのですが、そちらのほうはいろんな方々が活躍しているので、私は楽をさせてもらっていいかなと(笑)じゃあ、今一番何をしようかなーって考えた時に、「余裕」を持つために一休みしようと思っています。

というのも、ハードルの高いまちづくりに関わっていた時は正直辛いこともありました。時間的にも精神的にも余裕がなかったです。最近も部署の異動があり通常の業務をしていくなか、プライベートでまちづくりに関わっていました。これまでは自分という「若者」を応援してくれる方々のおかげで頑張れていたのかなと思います。でも先のことを考えたときに、「若さがなくなったら周囲からの見られ方も変わるし、体力的にも大変だな」って感じるようになったんです。とにかくがむしゃらに頑張るというのは、どこかで限界が出てくるんですよ。

そこで、今一度自分の土俵を整えて、自分も下の世代を応援できるくらいの余裕も持ちたいと思っています。今はどちらかというと人のために何かするというよりも、自分の環境を整えることが優先かなと。このまま人のために何かしようと続けていたら、きっとそれが上手くいかなくなった時に「なんで皆のためにしているのに!」って見返りを求めるようになってしまいます。

特に、私がこれから携わろうとしているまちづくりって、お金を生み出して回していくような、まちに再投資できるようなまちづくりになってくると思います。これまで熊本で行ってきたグリーンバードの活動がハードルの低いまちづくりだとすると、これからやろうとしているのはハードルの高いまちづくりというイメージですかね。ハードルの高いまちづくりで良いものを生み出すためには、経済的にも心理的にも余裕が欲しい。余裕がないと、このくらいでいいかと無難な活動になりかねないし、人を騙してとりあえずその場しのぎみたいになるかもしれない。また、まちづくりに関わるときは、そんな「余裕」を持って活動していきたいです。

これまでの活動では、成功することもあれば非効率だったり失敗したこともあったと思います。その経験があったからこそ、今はどうやって「質」を追求するかを考え始めています。毎週末に地域活動に出かけたり、とりあえずいろんな環境に飛び込んでみる。一見すると非効率な方法ですが、その「量」をこなしたからこそ「本質」の入り口に立てたのかなと。そういうわけで、まちづくりは一休みさせて頂いて、パワーアップしてまた戻ってきたいと思います。グリーンバードは今まで通り活動を続けていこうと思っていますので、お気軽にご参加くださいね。

 

東 広大(Koudai Higashi)

1992年生まれ。熊本市出身。熊本県立東稜高校を卒業し、日本一周の旅を経た後、政令指定都市移行とともに熊本市役所に入庁。地域コミュニティ分野のまちづくりからスタートし、空き店舗対策事業「seed market」のスタッフとしてジョイントしたのを契機に商業分野のまちづくりに携わる。その後、地元である健軍エリアの活性化事業として「健軍特区」を立ち上げる。また、特定非営利活動法人グリーンバードの熊本チームリーダーを引き継ぎ、環境分野のまちづくりに携わる。

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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