SOCIALSQUARE熊本店の開所にあたって出会った方のなかに、皆さんにぜひとも紹介したい女性がいます。熊本で長く就労支援に関わってきた原田文子さん。とても前向きで、地に足がついていて、原田さんの話を聞いていると、熊本でやりたいことがどんどん膨らんでしまう、そんな女性です。そこでその原田さんと、熊本店マネージャーの緒方が対談。障害の考え方、支援のあり方、さらには理想とする社会の作り方。余すことなくお伝えします。
編集部:まず、おふたりの「なれそめ」について教えていただけますか?
緒方:お互いが熊本出身という共通項もあるんですが、以前勤めていた会社が熊本に支援事業所を開くということでリサーチに来て、その時に初めて会いました。会社の方針が変わって熊本には進出しないことになったんですが、ぼくは熊本でやりたかったので、それでソーシャルデザインワークスにジョインさせてもらって、今こうして熊本店がオープンしたという流れです。最初の出会いは、だからもう5、6年前になりますよね。
原田:そうですね。私はその時は、ただ単に就労移行支援事業者が増えるっていうことがうれしくて、大手かどうかとか、法人がどうとか、そういうことは気にせず、当事者の方が利用できる選択肢が増えるということと、一緒に就労支援ができるということをうれしいなと思ってお話を伺いました。緒方さんがとても誠実な方だったんで、いいことが一緒にできるんじゃないかって、当時から思っていましたよ。
編集部:原田さんの今のお仕事について教えてもらえますか?
原田:私は、「就業・生活支援センター」という厚生労働省の事業所に務めています。今全国に330から340センターぐらいあると思います。障害のある人の「働くこと」と「暮らすこと」を一緒に応援していこうというセンターになります。みなさん「働きたい」ということでご相談に来られるんですが、まずは働く準備が必要かな、という方もいらっしゃいますので、移行支援事業者さんとか自立訓練の事業所さんとかに案内するということもしています。
緒方:原田さんはもともとこういう支援の仕事に興味があったんですか?
原田:精神保健福祉士の資格を持っているので、本当は病院で精神障害者の方の社会復帰を応援しようと思っていて、5つ病院を受けたんですけれども全部落ちたんですよ(笑)。たまたま専門学校の先輩に声を掛けられて。学校のなかで就職決まってなかったのが残り2人しかいなくて、それで何も考えずに「やります」って言っちゃいました。就労支援とか、興味以前に就職決まるのが遅かった私がだれかの就労支援なんてできるのかなって思っていました。
−つながりによって支える「暮らし」
編集部:原田さんが今の職場にきてから、熊本の就労移行支援の変化はありましたか?
原田:熊本の移行支援事業所さんは、すごく熱心な方が多くて、移行支援だけでもみんなでスキルアップしようって協議会を作って切磋琢磨されています。本当にすごく頑張っていらっしゃる事業者さんが多いですね。民間事業者の雇用率も2.2〜2.3%ぐらいあるはず。それで全国で13番目ぐらい。求人自体も増えています。ただ、当センターの課題としてはやはり定着ですね。働き続けるというところが課題として出ているかな、という現状です。それから、働く以前の生活をサポートする自立支援の施設も足りていないと感じています。
緒方:SOCIALSQUARE熊本店は、就労移行支援事業所としては開所してないんです。いわきと西宮は自立訓練と就労移行を併設しているんですけれども、熊本は自立訓練と相談支援を併設しているという形になります。ぼくは、前職で6年くらい就労支援をやっていたので、熊本に店を出すなら就労支援をやってくれと言われると思ったら、出された指示は「地域に耳を傾けて、その地域が求めてるものを一緒にやってほしい」という指示だったんです。
編集部:なるほど、代表の北山さんは、そういう指示を緒方さんに出していたんですね。
緒方:それで色々と外回りして、いろいろな話を聞いていくと、日中の居場所がないという方が結構いらっしゃったんです。デイケアと「地活(地域活動支援センター)」ぐらいしかないと。それに相談事業所も全国的に足りていない。そういうところに法人としてチャレンジするのも大事だということで、その二本柱になりました。あの時は、熊本を知るにはどこに行ったらいいかとか、誰に挨拶すればいいかとか、そういうことを原田さんに教えてもらっていました。
原田:改めて思うのは、働くための土台って、生活、暮らしなんだということ。生活が安定して、落ち着いて仕事探しができる。そういう環境が大事なんです。その意味では、移行支援は結構あるんですけれども、自立訓練が熊本には少ないのかもしれません。
緒方:運営的な視点でいうと、就労の方の場合は月に20日くらい通ってきてくださる。けれど、自立訓練は、最初は家からなかなか出られないというところから始めるので、単純に事業の利益が出にくい。そういうところにも進出のしにくさがあるような気もします。これからどうこの場所を地域に開いていくのか。試行錯誤をしていくしかないですね。
−支援を拡張する「楽しさ」と「ごちゃまぜ」
編集部:社会に広げようというときには、やはり「ごちゃまぜ」の理念が活きてくると思います。原田さんは、ソーシャルデザインワークスが掲げている「ごちゃまぜ」についてはどの様に感じてらっしゃいますか?
原田:ごちゃまぜの考えは大好きですよ。実は仕事以外に、フットサルと野球チームをつくったりしています。普段は就労支援の仕事だけど、働くだけではなくて、その先にある楽しみってとっても大事なものだと思うんです。たまたま元サッカー部だった施設の職員さんがいらっしゃって、飲み会の席で隣になったときに「サッカーしたいんだ」っていう声を聞いたので、じゃあ一緒にやりましょうとなり、フットサルチームを作ることになりました。
緒方:えっ? そんな経緯だったんですね。利用者さんも入ってるんですよね?
原田:もちろんですよ。利用者さんやスタッフの子供も参加して、毎月3回ぐらいしてるんですけれども、そこが本当にごちゃまぜの世界だなって。本当に素敵な光景だなと思って、最初の方とかはウルってきていました。今はもう慣れたんですけどね。普段はあくまで「支援者−利用者」っていう立場だけど、同じ楽しみを共有する時間・空間というのは関係がない。私はサッカーが下手なので、利用者の方にナイスパスをいただいたり、サポートいただいたりしないと何もできない。立場とか関係なくなるんですよ。
緒方:めっちゃいいですね。
原田:野球もそうですけど、みんなが同じ立場、フラットな立場になれる機会をどんどん増やしていきたいと思っています。かれこれ14年もこんな仕事をしていて、人ってなんだろう、障害って何だろうって常に感じていて。街で会えば、ただの同じ生活者なんですよ。だから、支援する人される人ではなくて、同じ生活者として交流できる機会をたくさん作っていこうと思って。実は、この仕事、3月で辞めちゃいます!
編集部:ええええええええええ!?
原田:働くことに対する支援については事業所もたくさんありますけど、暮らしと言うか、その人の人生が少しでも輝く機会を作る、そういう支援はまだまだだと感じています。そのためにも、まずは一緒に楽しめることをやりたいなと思っています。そういう考えがもともとあったので、ごちゃまぜの世界を聞いた時、すごく素敵だなと思いました。これから裸一貫なので、緒方さんにもご協力頂きながら、いろんな活動に取り組んでいけたらいいなと思っています。
緒方:僕も原田さんが企画してくださった野球に初めて参加した時はほんと感動しましたね。誰が利用者さんとか意識する必要がなくて、本当にごちゃまぜに野球を一生懸命やって、終わった後に「これごちゃまぜだな」ってすごく感じました。特にスポーツだと、自然と、意識しなくても感じることができる。すごい力があるんだなと。
原田:さっき「年度末でやめる」って話をしてしまいましたが、実はもう6年前に、仲間たちと、事業に乗らない課題を解決していくチームを組んで活動はしていたんです。でも仕事の片手間になってしまっていて進んでない。それで今回私が辞めて代表として頑張るということになって・・・・。
緒方:代表理事になるってことですか?
原田:はい、そうなんですよ。事業にならない課題ってやっぱりあって。だから、まず実績を残して予算化してもらうとか、そういう所をまず実践していかないと大事なところが伝わらないですし。一つは、働くとこういった楽しみができるんだよっていうことを伝える様なことがしたいと思っていて。自分で自由なお金を使えると、こんなに楽しい暮らしが待ってるんだよって。働き方も大事だけど、働くその先に楽しみがあるっていうことを伝えなくちゃって。
緒方:それが自然ですよね。自分ももともと教員の免許を持ってるんですよ。教育に関われるような仕事を探していたら、なぜか営業職と出会ってしまって、結局9年ぐらい営業をやってたんですけど、やっぱり関わる人が笑顔になれるような仕事がしたかったんです。そこで、福祉の業界に出会った。営業も福祉も、関わる人が笑顔になるってゴールは同じだったりして。
原田:素敵ですね。
−楽しさが伝播する福祉
緒方:楽しさを伝えるというときも、ネットワークや連携が大事だと思っていて、個人的には、原田さんが熊本の市職員さんとの連携をすごく大事にされているのを見て学びました。NPO法人や民間企業だけで作れる世界より、市や職員さんたちと一緒に協力した方がインパクトがあると。でもそのネットーワークは、同じものをみんなで作るのではなくて、基本となる個々の活動は大事にされているのが理想だと思います。だから、これからも原田さんが作ってきたものを守って継続してほしいですよね。そうすることで影響しあって熊本市も、そこに関わる人たちも発展していける。地道に続けていくほかないですよね、福祉に必殺技みたいなものってないと思うんですよ。
原田:ないです。地道に、地道に。
緒方: 同じ思いがある人たちと地道につないでいく。その意味では、原田さんたちがこれからやろうとしていることを開催する「場所」としてSOCIALSQUAREを使ってもらってもいいし、みんなが持ってるリソースを持ち寄ればいい。いろんな力を借りていくことに遠慮しないと言うか。そういうものから何か大きいものにつながっていくと思っています。
原田:私も緒方さんと一緒で、横のつながりが大事だなって思っていて、というのも、一人の利用者の方の生活、暮らしを支えるっていろんな人の力が要ると思うんです。私たち一人だけでは限界があるから、みんなで一緒にやっていくんだっていうところを大事にしてきて、少々腹立つことがあっても笑顔で対応してきました。最近の熊本は、行政の人までそういう連携の輪に加わってくださったり、当事者の方も加わってくださったりしながら、みんなで支えていこうという仕組みを少しずつ、少しずつ作っていて。その輪もだいぶ形になってきたかなっていうのは感じているところです。
緒方:すばらしいですね。
原田:本当に自分ごととして、他人ごとではなくて。自分ごととして想像力を発揮してとかできるように。自分だって障害者になるかもしれないし、実際、私だって生きづらいことがたくさんある。そういうものを障害があるからとかないからとかじゃなくて、私今ここで困ってるから、あなたはここで助けてくれない?というような、そういうお互い様の社会を夢みています。
緒方:それが自然ですよね。先回りするんじゃなくって、助けてほしい、手伝ってほしいって、もっと気軽に声を出せる社会というか。
原田:あとは、障害のある方の得意なことを生かす場所をたくさん作りたいんです。例えば粘土細工が得意な方、ネイルアートが得意な方とかがワークショップをして、そこでちゃんとお金を稼いだり、「だれかの役に立った」と自分を認められるような思いを持てる。そういう機会をどんどん作っていきたいなって思っています。障害あるから助けて、じゃなくて、こういうことができるからみんなに楽しみが提供できるよ、そのぶんのお金はちゃんといただきますよって。何て言うのかな、持ちつ持たれつ、おたがいさま、自分の得意なことを他の誰かに役立てる、そういう機会をたくさん作っていって、「おたがいさまの社会」を作って行きたいなというふうに思っています。
編集部:いいですねー!
原田:そこで大事なのは自分が楽しむことなのかなってすごく感じています。誰かの為っていうのもとてもとても大事なんですけれど、自分が楽しいとか自分がそこにいて幸せだって感じることって、強い原動力になるのかなって感じますね。
緒方:フットサルとか野球とかとまったく一緒ではないですけれど、そういう延長で新しい事業ができたら、という感覚があるということですか?
原田:そうですそうです。いろんな人たちが楽しみながら助け合える場を作りたいんです。今、増えてきていると言っても、福祉施設は足りていませんし、人手も不足しています。福祉って給料が安かったり、仕事がキツかったりするイメージがあって、若者が福祉から離れているのも課題ですよね。もちろん待遇面の向上は求めつつも、それ以前に、福祉という仕事の楽しさ、自分たちは楽しいことをやってるんだって感じられることもやっていきたいですね。まだ答えは見えてないんですけど。
編集部:なるほど、きつい現場に関わっている人たちの「楽しさ」とか「娯楽」のようなものを提供することもまた広義の福祉と言えるのかもしれませんね。
原田:そうかもしれません。それで、そういう「楽しい」ポジティブな感情は、SOCIALSQUAREさんからも生まれてて、おしゃれですごくいいじゃないですか。おしゃれで、すごくいいデザインがあるから、笑顔で人が集まってくれる。熊本にもこういう場所ができてうれしいなってすごく思っています。
緒方:そう言ってもらえて勇気をもらった気がします。ぜひまたコラボさせてください。今日はありがとうございました!
撮影・聞き手:奥田峻史(SOCIALSQUARE熊本店)
構成:小松理虔(ごちゃまぜタイムズ編集部)
原田 文子(はらだ・ふみこ)
NPO法人KP5000代表理事。1980年7月31日熊本県生まれ。大学卒業後、精神保健を学ぶ専門学校に入学。熊本障害者就業・生活支援センターに14年間勤務。仕事の傍ら、2012年10月に3人の有志でKP5000を結成。2019年4月にKP5000を法人化し、現在に至る。※NPO法人KP5000とは、「誰もが、自分のもっているチカラを発揮して輝く」街づくりプロジェクト。
緒方 豪太(おがた・ごうた)
NPO法人ソーシャルデザインワークス理事。熊本県生まれ。大学卒業後、9年間教育関係の営業職に従事。2012年より障害福祉の業界へ転職し、2018年4月NPO法人ソーシャルデザインワークスに入職。現在に至る。
GochamazeTimesCompany
全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。
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