GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

ボロがデザイン出来ているから一緒に考えていける。創っていける。

清田仁之さん・藤本遼さん

“違いとたくさん出会おう” 2017年から兵庫県尼崎市で行われる「ミーツザ福祉」というイベントが注目を集めています。福祉とは関わりのないお店も多数出店し、音楽やお笑いステージに会場が一体となる様子に、運営関係者や参加者からは「福祉なのに、おしゃれ」という声が。障害のある・なしに限らず、多くの人から支持される理由を探るため、イベントを主導する清田仁之さんと藤本遼さんのお二人にお話を伺って来ました。

駅を降りると下町の雰囲気が漂い、通りには競馬場に向かうであろう灰色のジャケットを羽織ったおっちゃん達が闊歩している。大通りを抜けて路地に入るとそこは閑静な住宅街。アパートのピロティでお月さまのようなモニュメントがお出迎えしてくれる。そこが「NPO法人月と風と」の事務所だ。

出迎えてくれたのは「NPO法人月と風と」代表の清田さんと「株式会社ここにある」の藤本さん。「ミーツ・ザ・福祉」の中心人物だ。

誰もが主役にも裏方にもなれる場

「ミーツ・ザ・福祉」は障がいがあってもなくても楽しめるフェスとして、2017年から尼崎でスタートした。元々は「市民福祉のつどい」というイベントを市が開催しており、委託事業として引き継いでいる。

藤本:ぼくから清田さんにやりませんかって言ったんですよ。

清田:福祉はイメージが悪いですよね。大変そうとか、かわいそうとか。障がいがあっても人生楽しんで生きているぞって社会に対して打ち出していかなあかんなって思っていました。「NPO法人月と風と」としても福祉制度では充足できないニーズが出てきた時にどこにも繋げられないと困ってしまうので、福祉をやっている人以外との交流を広げていかないとあかんなと行動し始めた時期でした。

そこで発信力やデザイン力のある藤本くんに出会って、しかも藤本くんから声をかけてきてくれたので、これはチャンスやな思いました。「市民福祉のつどい」をガラッと変えていこうと思って。

藤本:市の委託事業としてやっているので障がいのある人のためにという目的は外せないんですが、障がいのある人のためのイベントではないように設えた方がいいんだろうなと思っています。

健常者が場をつくって、障がいのある人たちの発表の機会をつくるイベントって多いと思うんですけど、そういうのって何かちゃうなーって。やる側・させられる側が別れていて面白くないなと。表現したい人もいれば、企画したい人もいる。サポートに回りたい人だっている。障がいがあるとかないとか関係なく、自分が望む関わり方を選べる。そんな感じでごちゃまぜにしていった方が面白いイベントに出来るんじゃないかと思うんですよ。お膳立てをし過ぎない。

障がいのある人たちって何かのプロジェクトのリーダーになって進めていく経験って少ないんじゃないかと思っていて。誰もが主役にも裏方にもなれるというのが「ミーツ・ザ・福祉」のキーだと思っています。はじめてのことだから上手くは出来ないかもしれないし、壁にぶつかるかもしれないけど、そういう経験ってとっても大事。

障がいがあるとサポートを受ける機会が増えてしまうので、自分から何かを企てていったり、仕掛けていったりという機会があまりないのかなって。「ミーツ・ザ・福祉」では障がいがあってもそういうことが出来る場になっていったらいいなと思っています。

清田:そもそも障がいがあるなし関係なく、得意不得意はあるよね。自分も事務仕事が苦手すぎて、3ヶ月くらい請求を滞納したことがあるんですよ。俺はそんなこともできないんやみたいになったけど、そういう人もおるんやって気づけると、許せたりするし、優しくなれたりする

藤本:障がいのある人のことが話の中心になってますけど、グラデーションっていうか、どっからが障がいでどっからが障がいじゃないかってわかりにいくいじゃないですか。1年目から中心メンバーとして関わってくれている女性がいるんですけど、今回はかなり体調を崩したりとか精神的に不調になったりして、ミーティングにもあまり来れなかったんですけど、たまにオンラインで参加してくれました。ぼくらは障がいがあってもなくても、どんな人であっても居心地の良い空間を目指しています。彼女も「ミーツ・ザ・福祉」が作り出す空気感がすごく気持ちいいって言ってくれていて、だから状態が悪くても継続的に関わってくれたんだなと。

そういう状況がすごくたくさん生まれていて、彼女にとっての居場所みたいになってるんですよ。それは「ミーツ・ザ・福祉」でつくれている価値のひとつなのかなと思います。

様々な関わり方を許容する

「ミーツ・ザ・福祉」では企画段階から誰でも参加できると聞きました。何故そういったことをされているのでしょうか?

清田:「市民福祉のつどい」だった時も、障がい者のためにと言ってもなかなか全ての障がいのある人が楽しめるようにするというのは難しい状況でした。「ミーツ・ザ・福祉」ではオープンミーティングという場を導入していて、「ミーツ・ザ・福祉」をどういうイベントにしていくかという話し合いに誰でも参加できる形をとっています。

藤本くんが「フクシミライカイギ」というものを以前やっていて、こんなデイサービスだったら楽しいなみたいなのを、それこそ利用者や福祉関係者以外をいっぱい呼んで、みんなでアイデアをたくさん出し合うっていうワークショップをやっていたんですよね。それがすごい良くて、そのデイサービスのことはそれまで全然知らなかっけど、今では前を通ると自分のアイデアがかたちになっていないか気になってしまいます。

それで「ミーツ・ザ・福祉」にも取り入れようと思いました。福祉に携わっている人でも、結局「目の前の利用者のためにどうしようか」という思考になりやすいので、「ミーツ・ザ・福祉」ではミーティングでこういう人来たらどうしよ?っていうのを想像して、来る・来ないに関わらず誰でも参加しやすいような話し合いの工夫をしたいと思ってます。ミーティングには来ても喋らなくても良いし、途中で帰ってもいいし、休みたかったら座ってるだけでもいいし、そこのハードルを低くしたいですね。

藤本:いろんな人に関わってもらう方が良いなと。そもそも尼崎市の目的も障がい啓発であり、障がいのある方の社会参加の場をつくるっていうことなので、できるだけ一般の人というか、普段支援とか福祉の現場に関わっていない人が来ないと意味がないじゃないですか。そういう人たちに来てもらえるような場・機会をたくさんつくっていき、みんなが楽しめるイベントをつくっていくためにはというテーマで一緒になって手伝ってくれる人がどんどん集まってきました。

関わり方の濃さも人によって色々だと思います。いろんな関わり方を許容することがプロジェクトを進めていくうえで大事。100%全てを残さず汲み取るっていうのは無理だと思うけど、出来る限り広く関わってもらえるような環境・仕組みづくりは意識してやっています。

「ミーツ・ザ・福祉」も3年目なので噂は聞いていたという人は増えてきました。ただ、今まで関わっていなかった人が自分からこの役割やりますよって言い出してきてくれることって稀。なので、こちらから〇〇さんはこういう仕事得意だと思うのでやってくれませんか?って話を振ってみると、待ってましたと言わんばかりに役割を担ってくれる。そうやって、こちらから働きかけていくことも大事だなと思います。無理やり取り込んで、しんどいんで辞めますと言われても「そうだよね」ってなっちゃうし、その人に合った役割や関わり方があると思っています。いろんな関わり方があるよねと思いながら、知ってもらうことはとても大切なことなので、発信は続けています。

ミーツ(出会い)によって生まれた変化

「ミーツ・ザ・福祉」のミーツは出会うという意味で、イベントページにも「◯◯さん」と知り合うことができれば、見える世界が変わってくるかもしれません。と書かれていますが、ミーツによって人や地域に変化はありましたか?

藤本:ぼくらが仕事として市から委託されることになった時に、「市民福祉の集い」の実行委員会があったんですよ。その実行委員会の中には「マンネリ化しているし、新しい人達に任せようか」って言ってくれる人もいれば「お前ら誰やねん。任せられへん。信用できへん」っていう声もあったんですよ。お互いに不安とか怖さがあるじゃないですか。ぼくらもわからない部分があるから丁寧にならないとあかんし、「市民福祉のつどい」の実行委員会側もイベントを変えていきたいけど、今のネットワークじゃ変えられない。でも新しい人たちを信用していいのか?とか、自分たちのことを理解してくれるのか?っていう不安がせめぎ合っていて、色々ありました。

例えば、今は一緒に仲間としてやってくれている人からいろいろと決まった後に「オープンミーティングは認めない」「全部白紙にしよう」っていうメールがきてたんですよ。でも今は一緒になってやってくれているし、その人もこの3年でめっちゃ変わったなと思うんですよね。

彼はほぼ毎回ぼくのFacebookの投稿にコメントをしてくれるんですよ。そんな普通の友達になれたなっていうことがあって、それは自分自身としても大きな出来事でしたし、そういう関係性が深まっていく変化がたくさん起こっているんじゃないかなと。それぞれが変化を感じて「ミーツ・ザ・福祉」の活動をしてくれていると思います。だからこそいろんな人たちが継続的に関わってくれている。自分の日常が広がっていくというか、そんな感覚を持ってるんちゃうかなって。最近、久しぶりにメールを見返して「めっちゃきつかったやん昔。でも今はなんか仲間やな」と思いました。

清田:「ミーツ・ザ・福祉」に車椅子の方が参加されていて、その後に彼は実行委員会に入ることになったんですけど、一緒にやっていく中で彼の仲間がどんどん増えていきました。他のイベントにも積極的に関わるようになって、行ったこともないのに突然東京に行ってくるって言って、音楽イベントに参加してきたり。ミーツがきっかけで彼はすごく積極的になったなと。

藤本:彼は尼崎に引っ越そうとしているんですよ。

清田:「ミーツ・ザ・福祉」がきっかけで一人暮らし始めるんですよ。すごいですよね。

藤本:新しい繋がりが彼の人生をすごい広げていて、「俺は今なんかいろんなことができるぞ」って思っているからこそ、尼崎に引っ越そうと考えていてます。それがいいのか悪いのかわらかないけど、個人の意識のすごい変化だったりとか、繋がりがあることによって、自分の認識とか世界観がどんどん変わっていったっていうよいケースなのかなって。

穴だらけだからこその尼崎

お二人とも尼崎で活動されていますが、尼崎の魅力とは何でしょうか?

藤本:何で尼崎なのかというと、ノリがすごく良いんですよね。ノリってすごく大事です。こんな成果が生まれるからとか、これが正しいからっていうロジックじゃないけど動けるっていうこと。なんかよくわからんけど面白そうやし動いてみようかっていうノリで動けちゃうことってすごい大事。動いてみてダメやったらやめたらいいし、良かったらいいねって気づいて、より広がっていく感じ。そんな空気感があります。

あとは人と繋がっている感覚をちゃんと持っていて、ちゃんとまちで暮らしてる感覚を持ってること。他のまち、特に都市部は暮らしているという感覚よりは住んでいるという感覚なんですよね。尼崎の人たちは暮らしているんですよ。働いている、暮らしているが繋がっている感じがすごくする。自分たちの暮らしをちゃんとつくっていこうという動きをしている人が多い気がしています。自治会とかには入ってないかもしれないし、そこには興味がないかもしれないけれど、新しい地域ネットワークキングみたいなものをちゃんと大事なものとして理解して活動している気がします。

清田:福祉の制度で言ったら都市部の制度は完璧過ぎるんですよ。落ち度がないように作られている。尼崎だと困ったことがあった時は知り合いに聞くとかしますよ。

藤本:制度内で完結するような制度になっているんですね。

清田:制度が完璧だと市民の力というか、異常にいい人みたいな存在は見つからない気がしますね。いるかもしれないけど、隠れちゃう。

藤本:尼崎は「ボロのデザイン」がされています。ボロがデザインされているから一緒に考えてよってお願いできます。そこにちゃんとコミュニケーションのコストを払うかどうかっていうことなんですよ。

制度を完璧にするとコミュニケーションが発生しなくても解決するわけじゃないですか。トラブルを伝えれば終わりみたいな。微妙やからこそ考えなあかんし、対応せなあかんし、対立することもあるかもしれんけど。でも、その時間をコストと捉えるのか、価値と捉えるのかどっちなんやろう、みたいな世界だと思います。ぼくらの周りでは、それを価値だと思ってやれているのかもしれないですね。

ゆるい関係性を広げていく

「ミーツ・ザ・福祉」を通してどういったことを伝えていきたいですか?今後の展望も教えて下さい。

清田:ぼくは障がい福祉の仕事をしているので、他のイベントとか集まりとかで、「こういう人が来たら不便かな?」という発想ができる人が増えるっていうのが理想ですね。先程の話に出ていた車椅子の彼は、自分の身を挺して切り開いていってるんですよ。この場に車椅子の人が来たらちょっと不便かなとか、耳聞こえん人来たら不便かなとか、そういうのが自然に浮かぶような場になっていると良いなと思います。

藤本:非日常のイベントも大事だと思うんですけど、日常がどう変わっていくのかがより大事な気がしています。地域で暮らしていくっていうことは、福祉業界だけではなくて、いろんな領域・業界でのテーマだと思っています。色んな課題に対して家族の中だけで解決せなあかん空気感ってありますよね。近くに色んな人がおるんやけど想像できなくて、繋がりきれてないことってめっちゃ課題やなと思っています。

「ミーツ・ザ・福祉」は、それをどういう風にうまく繋ぎ直していけるかっていうことにチャレンジするためのひとつの提案だと思っているんですよ。多様な繋がりを生み出すことによって、地域で生きていくというか「普通」に生きていくことが楽しくなっていくのかなと思っているので、そういう風になってほしい。

ぼくは24歳くらいから尼崎というまちに主体的に関わり始めて、友達がたくさん増えて、いろんな人たちといろんなことができるようになりました。これはすごい生きやすいですよ。自分のことを知ってくれてる人がいるし、自分の大切にしたいことやどんなことをやってるかをわかってくれていて、とても生きやすい。挨拶してくれるし、手伝ってくれるし、声をかけてくれる。声をかけてくれるっていうのは自分のことをちゃんと人間として認めてくれているってことじゃないですか。そういうゆるい関係性をちゃんと広げていくことができたら、生きやすくなるんですよ。

そういうものをどういう風につくっていけるかっていうことを、この「ミーツ・ザ・福祉」を通して考えていきたいし、みんなとつくっていけたらいいなって思ってますね。

清田 仁之(きよた・まさゆき)

特定非営利活動法人 「月と風と」代表。関西学院卒。紳士服屋店員をへて、2006年11月、福祉・アート・まちづくりNPO法人「月と風と」設立。しょうがいある人とない人のつながりづくりに主眼をおき活動中。ヘルパー派遣業と並行して、銭湯やひとんちのお風呂でしょうがいのある人とつなげるプロジェクト『劇場型銭湯』、尼崎市委託のインクルージョンイベント『ミーツ・ザ・福祉』、コープこうべと協同でしょうがいのある人も働く寄付でつながる古着屋『チャリティショップふくる』などを展開。社会福祉士/介護福祉士/ 第5回詩のボクシング(詩の朗読大会)兵庫県チャンピオン。

藤本 遼(ふじもと・りょう)

株式会社ここにある代表取締役/場を編む人。1990年4月生まれ。兵庫県尼崎市出身在住。「株式会社ここにある」代表取締役。「すべての人がわたしであることを楽しみ、まっとうしながら生きていくことができる社会」を目指し、さまざまなプロジェクトを行う。「余白のデザイン」と「あわい(関係性)の編集」がキーワード。現在は、イベント・地域プロジェクトの企画運営や立ち上げ支援、会議やワークショップの企画・ファシリテーション、共創的な場づくり・まちづくりに関するコンサルティングや研修などを行う。さまざまな主体とともに共創的に進めていくプロセスデザインが専門。代表的なプロジェクトは「ミーツ・ザ・福祉」「カリー寺」「生き方見本市(生き博)」「尼崎ENGAWA化計画」など。『場づくりという冒険 いかしあうつながりを編み直す(グリーンズ出版)』著(2020年3月発売予定)。

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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