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INTERVIEW

障害を感じない小さなコミュニティを作り続けること

SPECIAL INTERVIEW
西岡 崇弘さん
臨床心理士/関西学院大学キャンパス自立支援室

障害を感じない小さなコミュニティを作り続けること

障害を持った「社会人」の就労や、養護学校などに通う「生徒」たちなどの声を紹介してきた「GOCHAMAZEtimes」。なかなか伝えきれていなかったのが、子供と社会人の間にいる「大学生」たちの現状です。そこで今回は、ソーシャルスクエア西宮が連携している関西学院大学キャンパス自立支援室の西岡崇弘さんに、障害を持った大学生たちの現状、支援の現状について話を伺いました。

日本学生支援機構の発表によると、平成28年5月時点で、障害のある大学生の数は全国で27,257人。全学生の0.86%にあたります。学生が1000人いれば、そのうち86人が何らかの障害を持っているということになります。ちなみにその5年前のデータでは、障害学生の数は10,236人と報告されています。この5年で1万7千人の「増加」。障害を持った学生が、それほど増えているのでしょうか。

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出典:日本学生支援機構 障害のある学生の修学支援に関する実態調査

実はこれ、平成28年4月の「障害者差別解消法」の施工後、各大学において障害学生の支援体制の整備が進み、障害学生の把握が進んだことを意味しています。言い換えれば、これまでは、障害を持っているのに、障害と認識されずに保護の対象から漏れていた学生がいたことを意味します。この1年余りで、ようやく障害を持った学生たちの実態が明らかになり、支援体制が整ってきています。

今回インタビューした関西学院大学の西岡さんも、障害学生の支援にあたるコーディネーターの一人。同大学の「キャンパス自立支援室」で障害学生の修学支援を担当しています。障害が理由で授業が受けられないという様々なケースを把握し、一人でも多くの障害学生が他の学生と同じ環境で学べるよう、教職員などに働きかけ、修学環境を整えています。大学で学ぶ障害学生の現状から、話を伺いました。

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西岡 現在、支援室に登録をしている学生が80名ほど。そのうち、発達障害などの診断がある学生が35~36名、精神が15~16名、あとは聴覚や視覚の障害がある学生です。特に発達障害の学生は、授業の中での困りごとが多岐にわたります。過敏な聴覚や視覚、あるいは逆に鈍感な場合もありますし、大人数だと安心できるけど少人数だとすごく緊張してしまう学生もいます。個別のニーズに合わせて環境を調整していくことを業務としています。

大学というのは、時間割作成から進路選択まで、何をどのくらい学ぶか、自分はどのように社会とかかわっていくのか、全て自分で考えなければなりません。中高では、どちらかというと与えられた課題をこなすだけなのでうまくいってたけれど、大学に入ると環境が激変し、授業についていけない、同級生ともうまくいかない、ということが起きやすくなります。また、大学時代にはなんとかやれていたという学生も、社会に出て就職してからしんどくなってしまうということも少なくありません。

やはり大学在学中にサポート体制を築くことが大事だと考えています。例えば本学では、発達障害学生に対して就労に関するプログラムを提供しています。一般枠で就活を進めるのか、障がい者枠で進めるのか、支援機関へ行くのかなど就活(進路)の方向性を、特性理解を踏まえて見極めることを目的にしています。特に障がい者枠を選択する場合は、働き始める前に、自分の特性や職場に求める配慮を理解しておくことが大事です。それでも決まらない学生には、大学を出ても相談機関があるし、助けてくれと言えば絶対助けてくれるぞ、と伝えるようにしています。その意味でも、卒業してからの学生のフォローができる就労支援の専門機関との連携はとても大きいですね。

学内を見てみると、身体の障害の場合だと、例えば視覚障害の学生に対しては、多くの学生が道を開けてあげたり、点字ブロックの上のものをとってあげたり、車椅子の学生なら学生が押してあげたりと、具体的に行動できる学生が多いのですが、発達障害は見た目からは分からないので、話をしてみて、実際に付き合ってみてようやく出てくるという場合が多いですよね。

ゼミなど小さなコミュニティだと協力しようという空気が作りやすいのですが、大教室の授業などは「なんでこの人は前の席でずっと身体が動いてるんだろう」なんて思われてしまい、偏見につながったり、それが原因で本人が疎外感を感じたりしやすいんです。教職員向けの研修と並行して、発達障害でない学生自身にも、障害をどう理解してもらうか考えていかなければならないと考えています。

−課題は、「学外にいる」大学生の支援

平成28年以降、データが示すように、障害を持つ学生たちの把握が進み、支援体制も年々整えられてきてはいます。しかし、課題もあると西岡さんは言います。それが学内での支援の限界。大学の支援は学校に来ないと受けられず、障害が理由で「大学に来ることができない」という、より重篤な障害を持つ学生の支援まで手が回っていないのです。

西岡 一言で言えば生活支援です。大学でできる支援は学内に限られるので、学内に一歩でも入ってくれれば様々な相談を受けられるのですが、学外にいると目が届きません。小中学校のように自宅に行って様子を見て来るというわけにいかないんです。重篤な学生のケースを見てみると、大学の授業以前に、普段の生活の基盤が構築されていないというケースをよく見ます。大学に行こうという状態になっていないわけです。

そのような時に欠かせないのが生活フォロー。学生が大学にいる以外の時間どこにいるかって、ほとんどは家か友だちの家ですよね。大学の外なので、私たちにできることは限りがあります。ですから、ソーシャルスクエアのような地域の事業所と連携して生活フォローをしていくことは重要です。そうすることで大学に来てからの支援もスムーズになります。学生の環境を全体で支えていくことが大事なんです。

自立支援室は基本的には、診断がついていて、ある程度障害や病気を自認している学生が登録していますが、大学に入って「自分には障害あったのか」と認識する学生もいますし、「今までうまくいかなかったのは障害のせいだったのか」と深く納得していく学生もいます。一方で「何をどう助けて欲しいか」というニーズを表明することが難しい学生さんもいます。そういう学生を含め、どうケアをしていくのか、地域の皆さんと対話・連携を進めていきたいと思います。

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−引き上げるのではなく、背中を押しながら山を登る

学生支援の、いわば最前線で仕事をしている西岡さん。障害福祉への道を、どのように目指してきたのでしょうか。福祉の道を志したきっかけや、カウンセラーの経験を活かしてコーディネーターとしての仕事をしていく上で大事にしていることなども伺いました。

西岡 高校生の時、何か就職に結びつくことを大学で学びたいと思っていたんですが、世の中にどんな仕事や資格があるかすらわからない状態で。そんなときに、進路相談などを通じて「カウンセラー」という仕事があることや「臨床心理士」という資格があるのを知りました。それで大学で心理学を学んでみようと思ったんです。卒業後も、中学校のスクールカウンセラーなど教育現場でのカウンセリングや精神科での相談業務という専門的な仕事を続けてきました。

突き放すような言い方になってしまいますが、カウンセラーといっても、やはり最終的には他人ですから、最後にはその人の選択を尊重するのが仕事です。全部相談に乗ってあげたいな、と思うこともよくありますが、なかなかそうもいきません。やはりしんどい話も受け止めないといけませんから、あまりにも相手の話に入り込み過ぎては自分が持たなくなってしまうし、かといって他人の話だということを意識しすぎると相手は拒絶感を抱くと思います。その点に関して、心理的な距離感は大事だと思います。

私たちは、自分を俯瞰して見る訓練をしています。適度な距離感が保たれているからこそ、客観的にケースを共有したり、悩みを持っている学生たちの間に入っていくことができるからです。カウンセリングをしているときは、もう一人の自分が冷静に状況を見ているような感じですね。人の内面、自分の内面と向き合う仕事だからこそ、適度な距離感は大事だと思います。

それから、大事にしているのは声がけですね。これは、皆さんにもできることだと思います。例えば、友達が元気がなさそうだなとか、逆に元気すぎるなとか、その時に思ったことを話しかけてみる。相手が何を感じて、何を思って、どうしたいのかまで聞けたらベストだと思います。なかなか言葉の出ない方も多いですし、こちらの意見もある程度与えた方がうまく行く場合もあります。その時々に相手が何を望んでいるのかを想像し、どのようなスタンスで会えば円滑に困り事が快方へ向かうのか、聞くことを軸にしながらコミュニケーションしていく。それがポイントかもしれません。

僕はグイグイ引っ張っていく指導者的なタイプではないので、ほとんど聞き役というか、学生の背中を押して、その人の行きたい方向に一緒についていくような立場でいたいなと思っています。指導者ではなく理解者というか。教職員や外部の支援機関との間に入って、できる限り、本人の理解、環境からの理解を求めていく。そこが役割だと思っています。

冒頭でも説明した通り、障害者差別解消法の施行によって、障害を持った学生の支援は、今後もより充実したものとなっていくことが予想されています。しかし、障害者を取り巻く法律が変わっても、社会が変わらなければ、障害は障害として存在してしまうはずです。西岡さんは、どのような社会を目指してるのでしょうか。

西岡 学生を見ていると、結局、つまずきがあってそこで初めて障害があると言われてしまうわけですね。中学や高校ではうまくいってたのに。つまり、環境のなかでうまくいっていれば障害にならないということです。そして社会には、うまくいくコミュニティ、いかないコミュニティがあるということも事実です。所属するところによって障害かどうかが変わるんです。

例えば統合失調症一つ取っても、日本ではそれがあたかもすごく重い病気のように語られてしまいますが、国や時代が違えば、ある種の超能力者として崇拝の対象になるかもしれないですし、それは極端な例かもしれませんが、現在は「障害」とされるものが、別のコミュニティでは「特性」として考えられることはあるわけです。

合理的配慮も同じかもしれません。社会全体が受け入れられればいいけれど、そうもいかないし、時間もかかるはずです。ですから、社会全体ではなくて、障害を持った学生が、自分にも所属できるコミュニティ、障害を感じにくいコミュニティを感じ取ることが重要だと思います。そういうコミュニティをいろいろなところで作っていくことが、いつのまにか全体で支えている社会に繋がるのではないでしょうか。

 

profile 西岡崇弘(にしおか・たかひろ)
奈良県生駒市出身。臨床心理士の資格取得後、大阪府スクールカウンセラー、高齢者ケアセンター、
精神科クリニック等での臨床業務を経て、現職に至る。主に、精神障害、発達障害を有する学生の修学支援を担当。

 

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。