GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

みんなが主役になれる里山

小島 悦子さん 和美さん

いわき市大久町で運営されている「ハイジの里山」は、市内外の数多くの方が集いイベントも行われている場所。美しく拓かれた里山で、音楽や食など様々な取り組みが行われています。しかしこの里山、もともとは「田舎暮らしがしたい」と埼玉から移住した、たった一組のご夫婦が切り開いたものでした。里山の管理人、小島悦子さん、和美さん母娘は、この地で私たちに何を伝えようとしているのでしょう。

 

辛い経験をしたり、大変な想いをしたり、人知れず悩んだり、自信を持てなかったり。そんなときに山や海、土や草花に触れると、心が動かされ、ふと元気をもらうことが皆さんにもあると思います。自然にはきっと人の心を癒す力があるのでしょう。いわき市大久町にある「ハイジの里山」も、そんな不思議な力を持つ場所。多くの人を受け入れ、自然に触れ合うイベントなどを通じて、自然の魅力を発信しています。

この山を管理しているのが、埼玉から8年前に移住してきた小島剛さん・悦子さんご夫妻。自然の中で暮らしたいと、地方への移住を希望し、縁あってここ大久町にやってきました。当時からこの場所を「ハイジの里山」と名付け、地域の方たちに開放してきたそうです。2年前からは、娘の和美さんも移り住み、運営に関わっていらっしゃいます。市内外の様々な団体が関わるこの里山は、今では大久町のちょっとした名所になりつつあります。

アルプスの少女ハイジの本を読んでから、ずっとあんなふうに自然の中で駆け回りたいという憧れがありました。それから、いつかは田舎暮らしをしたいという夢をもっていました。この場所を見つけたのはたまたま。移住してきたのは2008年の3月でした。

もともと裏山には篠竹がたくさん茂っていて。そこを開墾しながら山を拓いて、少しずつここをオープンガーデンにしたり、地域の人を受け入れていました。幼稚園のお子さんたちが来て裏山で遊んだりすることもありました。でも、震災があって、そういう人たちとのつながりもなくなってしまったんです。小さいお子さんがいる親御さんは、原発の近いほうには行きたくないでしょう?

私たち夫婦も、一時期は娘のいる東京に避難していたのですが、たくさんの方との出会いのなかで、やはりここで自分のできることをしようって思い定めることができて。それで、戻って来てからは、ここを被災された方に開放したり、震災ボランティアの方に使って頂いたり、そうしているうちに自然と今の形に近づいていったように思います。(悦子さん)


大久町小久地区にあるハイジの里山。写真の奥に見えるあたりまで、周辺一帯の里山を開放しています。


里山の上のほうには遊歩道も整備されています。贅沢な森林浴も楽しめます。


インタビューに応えて下さった小島悦子さん(左)と、娘の和美さん(右)

―自分にやれることをやろう

大久町はもともと何の縁もない土地。親戚もいないため、震災直後、小島さん夫婦はこの場所で孤立してしまったと言います。そこで、一旦は大久を離れ、和美さんの自宅のあった東京の上野に避難。里山を離れざるを得なかった悦子さんは、自分たちの拓いた里山のこと、そして津波や原発事故のこと、今までの人生のこと、様々に思い悩む中で、ひとつの答えを見つけたそうです。

避難先の東京で、ある日公園で雀にエサをあげていた年配の方がいらして、雀がその方の手から直接エサを食べている風景に見とれて思わず話しかけてしまいました。そうしたらその方が、「私も広島で被爆したけれど、町も復興したし、私も今まで元気に生きてこられたんだから、悲観しちゃいけない」って言ってくださったんです。しばらくその方とお話しして、その前向きさに勇気を頂きました。あれがいわきに戻るきっかけになりましたね。

私はずっとお花と共に生きてきました。長年生け花やフラワーアレンジメントを教えていたんです。それで、震災の年の6月に、犠牲になった方の百ヶ日供養の式に関わらせて頂いたのです。「花がなくて寂しい」という住民の方の声を耳にし、その時庭や裏山に咲いていた花をかき集めて会場にお供えしました。自分がやってきたお花が、こんな形で役に立つと思わなくて。喜んでもらえて本当にうれしかったです。

そこで、「よし、自分にやれることをやればいいんだ」って素直に思えたんですね。でも、それは自分勝手にやればいいというわけではなくて。やはり自分1人だけでできることは限られてますから。地域の人たちと顔を合わせて、声をかけて一緒にやっていくことの大事さ。地域にも開かれた場所にしなくちゃって、そのときに答えが見つかった気がしました。(悦子さん)


里山の中にある工房には、悦子さんのフラワーアレンジメントの作品が展示されています。ここで教室も開かれているそうです。


里山には畑もあり、大事に作物が育てられている。ここで行われる収穫体験が人気なのだとか

―NPO法人ふよう土2100との出会い

そんな母親の姿を間近に見ていた和美さんも、母である悦子さんの想いや、震災後に知り合ったボランティアの方から刺激を受けて、いわきへ移住することを決めたそうです。移住後は、障がいを持つ子どもたちの支援をする郡山市のNPOに関わりながら、里山の企画や運営に携わっています。

私も実際この場所が大好きで、震災前から月に一度近く東京から通っていたんです。震災後は、ボランティア活動に精を出す両親を心配する気持ちもなかったわけではないけど、最初は応援したいという気持ちくらいでした。

でも、いろいろなボランティアの方たちと向き合ううちに、大きな刺激を受けている自分がいました。ボランティアで来てくださる皆さんって本当に一所懸命で、すごいなあってただただ感心するばかり。それを自分に置き換えてみると、東京で働いている意味ってなんだろうって思い始めて。そして数年後、東京の仕事を辞めて思い切っていわきに。

いわきに移り住んできてからも様々な方とお会いしました。ボランティアの仲間が携わっていた「おてんとSUN企業組合」が運営するコットン畑をお手伝いすることがあり、そこでその理事をしている古滝屋の里見喜生さんと知り合って、今度は里見さんたちが運営しているNPO法人の「ふよう土2100」の仕事にも関わらせて頂くことになりました。ふよう土では、障がいのある子どもたちの支援をしているのですが、そこの子どもたちをこの里山に招いて、山遊びしたり、フラワーアレンジしたりと、いろいろな活動をしてきました。

そこで感じたのは、その子どもたちがここで時間を過ごしているうちに自然と笑顔になっていくということでした。普段は自分の気持ちを表現することが不得意な子どもたちも、ここでは少し素直になれるようで。畑の土を触ったり、収穫の体験をしたり、ここで自然に触れ合っている時は、とても生き生きしているんです。やっぱり、自然にはそういう力があるんだなと改めて感じました。(和美さん)

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2016年1月に行われた里山イベントの模様。竹で打楽器をつくるワークショップ。子ども連れで大賑わい。

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里山ではアーティストやミュージシャンを招いた企画も行われる。大自然の中で体いっぱいに表現を楽しめるのもハイジの里山ならでは。

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里山ラリーの模様。野山を駆け回り、自然の中にあるもので表現することの楽しさを味わう子どもたち。

—多様性を学ぶ里山に

子どもや大人、障がいの有無関係なく、多様な人たちが集まれる山にしたい。その思いは、母である悦子さんも同じ。実は悦子さん、いわきに来る前は、精神障がいを持つ人たちへ押し花を教える活動を長く続けてきたそうです。花の持つ力、自然の持つ力を信じているからこその活動でした。

心に障がいを持つ人は、見た目ではわからないけれど、本当に色々な人がいて。凝り性の人もいれば、自分に自信を持てない人もいました。そんな方々が押し花の日は皆さん楽しみ待っていてくださって、最初は下を向いていた顔も、少しずつ上に向いてくるんです。先生もとても喜んで下さいました。そこで、「自分にもこのように人に喜んでもらえることがあるんだ」って本当にうれしかったのを覚えています。私自身が自らを肯定することができたように思います。

それは里山の活動にも繋がっています。障害のある人たちだけじゃない。何かに躓いた人が、自分を肯定できるような場所。世界中にある差別や偏見、私たちの身近なところにもあります。 でもここではすべての人が同じように癒される、ちょっと羽を休められる。そして笑顔になれる。そんな場所にしていけたら素敵だな、と改めて思うようになりました。

ボランティアで出会った人たちから悩み相談があったりもするんですよ。仕事のことや進路のこと、家族や恋人の悩みとか、そういうことを打ち明けてくれるんです。里山の自然と触れ合ううちに、そういうことが溶け出してくるのかもしれないですね。そんな悩んでいる人が、ここで力を取り戻して、また飛び立っていく。そうして、今度はお手伝いに来てくれたりして。10人いたら10通りの関わりかたがあると思っています。ここでは誰もが主役です。

自然を通じて、自ら感じ・考え・学び・行動することと出会える場所、そして、子どもも大人も地域もみんながつながるきっかけとなる場所、ハイジの里山をそんな場所にしていくことが、今の私たちの生きがいです。(悦子さん)

 

information ハイジの里山
https://www.facebook.com/haijinosatoyama/
所在地:〒979-0337 福島県いわき市大久町小久字山口47

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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ごちゃまぜグリーンバード@内郷駅

里山の楽しさを伝える活動をしている大久町のハイジの里山。管理人を務める小島悦子さんと和美さんは、ここから私たちに何を伝えようとしているのでしょう。

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