GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

自由を遮る全てを潰していきたい

岡 勇樹さん

医療福祉をテーマにしたクラブイベント「SOCiAL FUNK!」など、音楽/アート/医療/福祉を横断するイベントを数多く手がけるNPO法人Ubdobe(ウブドベ)の代表、岡勇樹さんへのインタビュー。一般的な「福祉」や「社会起業」の概念を逸脱するような岡さんの言葉は、しかしどこまでも本質を突いているようにも見えます。逸脱しているのは、どちらなのでしょう。ソーシャルスクエアの佐藤有佳里が話を伺いました。

佐藤:今日は取材を引き受けて下さってありがとうございます。岡さんは最近長野に引っ越されたと聞きました。ローカルなところに入ってみて、東京と違うなと思うところはありますか?

:めっちゃあるけど、なんだろう。場所の違いというより、自分の生活の違いが一番大きいかなって思ってて。子どもができて移住をして、子どもの風呂入れたり料理したり、掃除したり洗濯したりもするし、夜はもう8時に寝かしつけたり。ライフスタイルがものすごい変わったから、土地の違いみたいなことだけじゃなくて、ライフスタイルが土地にぴったし合って、土地がそれを実現させてくれているというバランスがあって。だから一概に比較できないかも。

佐藤:分かります。私も3年前まで東京にいたんですよ。手話通訳の勉強を仕事したくて東京に出てきて、実際には、卒業する時に「それだけじゃ食べていけない」って気づいて、それで、渋谷のソフトバンクの手話カウンターで働いてたんです。その後「LITALICOジュニア」で療育ををして、人生の1/3ぐらい東京にいたんです。やっぱり寝る時間とか全然違いますし、食べるものも全然違いますし、なんて言うんですか、お酒とかにかけるお金が全然違う。

:だから地方のほうがお金も貯まるんだよね。

佐藤:そうなんですよね。なんというか、精神的に豊かになったという部分が、福島に帰ってからすごくあるなって思っていて、月に1、2回くらいはこっち(東京)に来て仕事しているんですけど、違いっていうのは自分の心がだいぶ変わったなという感じがすごくあるんです。

:めっちゃそう。大事なものが変わった。今は、月に1回くらいこっちに来て、1週間で何本か打ち合わせして、それ以外は遠隔でできるようになって。こういうかたちで組織を運営できるのは、今までの積み重ねがあったからこそで、関わってくれた人には本当に感謝してる。改めて、ほんと今までの生活を見直すいい機会になってるなと思う。

福祉の常識を取っ払ってしまうような活躍を続ける岡さんにお話を伺いました。

—自由を遮る全てを潰すという福祉

佐藤:岡さんは、もしかしたら福祉をやっているって感覚はないかもしれないけど、なぜ今の仕事をされているんですか?

:なんでかって言ったら、まずは楽しいから。生きていれば、予想し得ない良くないことが起きるものでしょ。それを障害と呼ぶならば、それって誰しもあることだし、何かが起きてもイエーイって生き続けられればいいよねと思ってて。障害って、身体障害とか難病とか病気かもしれないし、もしかしたら環境問題による何かの弊害なのかもしれない。その全てに興味があるし、自由に生き続けるみたいなことを遮る何かがあるならば、それを潰していきたいなと思ってるんです。

佐藤:自由を遮るものを潰したいって感覚、よく分かります。

:だから、まずは、自分が違和感を感じたことに取り組みたい。そもそも福祉を始めた10年前とかも、自分がたまたまヘルパーとして入っていた利用者の人が、「すげー生きにくい」とか「全然家から出れないんだ」とか「差別されてる」とか言ってて、なにそれ超フ●ックじゃんかよっていう感じで。ちゃんとそれを言おうよ、こうなったほうがよくない? ってことを言い始めたんです。

佐藤:私も違和感をなくすために福祉をやってるっていうのがあります。小学校2年生くらいの時に手話に出会って、中学生の時に耳の聴こえない友達ができて。でも、そのとき初めて手話が通じなくて。今までは、耳の聴こえる人から習ってた手話だったから。

:それ、面白いね。

佐藤:単語は確かにたくさん知っていたんですけど、結局、耳の聴こえない人の言葉としては習ってなかったな、というか。ろうの友達と買い物に行ったりとか、マックでご飯食べたりとか、そういうことをしてるうちにネイティブの手話がだんだんと入ってきたんです。友人は本当に表現力が豊かで、手話に出会えてよかった、うれしいって私も思うことができて。でも、高校を卒業する時、その友人はトリマーになりたかったのに、聴こえないから無理だって親にも学校にも言われて、結局諦めなくちゃいけなくて。すごいおかしくない?って思って。

:そんなことがあったんだ。

佐藤:それで、何か手話でできることないかなって思い始めたんです。今は、手話は仕事としては使わないけど、就労支援とか自立訓練とかの仕事を通じて、社会の中にめちゃめちゃたくさんある違和感を1個ずつ、何度も潰してきて、少しずつ「こんな感じなら働けそうじゃん」って思ってもらえるようになった感じですね。そういう違和感から仕事をしているので、岡さんの気持ちもすごくよく分かる。

:そうだよね、それしかないよね。うちのインターンもそうで、夜間の高校通ってて、福祉の道に進みたいと思ってるのに、いろんな学校に断られてた。いいヤツだし、真面目だし、勉強もできるし、暇そうだし「週1でうちに来なよ」みたいな感じでインターンに入ってもらってる(笑)。今日も、名刺やメルマガの登録とかやってくれてるし、絵を書くのも好きで、ここで個展をやろうとか考えてて。

佐藤:すごい、いいですよねそれ。話を聞いてると、岡さんの事業は、困ってる人がいたら、それが社会的にどうこうっていうより、自分の友達だからやるみたいな感じですか?

:基本的には、やりたいと思ったらやる。うちは事業型で、収入の98%くらいが事業収入で、寄付とかクラウドファンドは2%しかない。「何かやりましょう、でも予算がない」なんてのは全部断っちゃう。当事者団体とかだと、お金がなくても何とかやってみましょう、ってこともあるけど、ちゃんと仕事として成り立つものだけをやってるかな。

佐藤:やりたいと思うかどうか、どのあたりにポイントがあるんですか?

:やりたいかどうか、その判断基準は、継続してやる価値があるかないかってこと。2年ぐらい前から、3年計画とか5年計画ぐらいまで立てられるプロジェクトだけをやっていこうって言い始めてて。受託事業は仕事として引き受けて課題解決に向かいつつ、お金を入れてそれを回して使っていく。ソーシャルファンクとか、そういうやつは自主事業だし好き勝手やるためのもの。

佐藤:うちも事業収入がなかったらサービスを提供できないなって感じて、自分たちの支援の質を上げていくには収益って絶対的に大事だなって思うようになりました。だからこそ、自主的な事業は収入がなくても、みんなにとりあえず知ってもらおうとか、みんなに楽しく過ごしてもらおうと考えられる。それをやり続けたら、行政とかが「ごちゃまぜ」の企画を一緒にやりたいと依頼が来て、今年本当に予算もついちゃって。何かをひとつやり続けて、言い続けてたら、お金が入ってくるという仕組みがちょっと出来てきたぞと感じてます。

:そう。自分たちが好きなことやってたら、行政とか他の人たちがついてきてくれて、それが欲しい、それがやりたいって言われるのが一番健全だよね。

自分のやりたいことを勝手に楽しむ中で、結果的に「福祉」を生み出す岡さん

—興味のあることしかやらない

佐藤:岡さんは、今日初めて私たちの掲げる「ごちゃまぜ」っていう言葉をお聞きになったかと思うんですが、どういう印象を持たれましたか? 地域では「多様性」とか「共生社会」とか「ダイバーシティ」とか言われるけど。

:なんか、そういうのって掲げる必要がないって思ってて。ユニバーサルとかダイバーシティとかノーマライゼーションとか、言葉は違うけど全部同じこと言ってるし、どっちでもいいと言うか。概念は同じなのに、言葉によって態度を変えていくっていうことでもないし。ごちゃまぜな状況が当たり前だよねって思っていれば当たり前だし。福祉っていう言葉もそうですよね。定義をしたことはいいことだ思うけど、一番大事なことじゃない。

佐藤:中学の時に総合学習の時間が始まって、福祉を専攻してたんですけど、福祉っていう言葉の意味を調べた時に、すべての人の生活が良くなるっていうことが意味として書かれてて。そのときは、全然言葉の定義になってないんじゃないかなって感じたけど、だんだん社会が言葉の定義に追いついてきたという感覚がちょっとあるんです。岡さんもそういう実感ってありますか?

:一切ない。気にしてないから。なんだろう、あんまり興味ないんですよね。一番興味があるのは音楽とアートで、そこを超えてくものが今んとこない。自分から福祉の情報を探るみたいなこともないし、講演会とか福祉イベントに行くとか一切ない。行くとしたら夜クラブ行ってイエーイ、的なものはしょっちゅうあるけど。今レコード屋をやりたいなと思っていて。

佐藤:レコード! かっこいいですね!

:今やってる福祉の活動って、当たり前だからやってるって言うか。これって必要じゃね? みたいなことだけ。だから福祉業界の中では「なんだあいつは」みたいな風に思われてると思うけど。

佐藤:これから岡さんは何をしていこうと考えてらっしゃるんですか?

:いろいろあるんだけど、プロジェクトは減らしていきたいなって思ってて。3年、4年ぐらい前は介護業界どうすんのみたいなところをやってきたけど、もうすげー飽きてんですよ(笑) 新しいプロジェクトも1ヶ月ぐらいすると飽きちゃう。自分の良さを発揮できる期間が過ぎるような感じがしちゃって。

佐藤:なるほど。

:本当はうまくサポートし続けながら形になるまで見届けないといけないんだけど、そういうのができなくて。ウブドベ以外にもやりたいこともあって、国連に行きたいんですよ。一応時期も決めていて、働き始めたら10年以内に事務総長になりたいっていうのがあって。それに向けて2025年以降は動くんだけど、それまでのあと7年ぐらいは、何をどこまでやるのかと、自分の次に事業を継続していく人を探さないといけないなと。

佐藤:そこがすごい大変ですよね。

:超大変だよ。本当は社員をいっぱい入れて家族みたいな感じでやりたいんだけど、うち、めっちゃ人辞めるんですよ。俺がすごく細かいうえにうるさいから。

佐藤:うちの代表もけっこうヒドいこと言いますよ(笑)。私と代表とでけっこう喧嘩してますから。でも、初動のパワーってあるじゃないですか。起業家ならではの。それって、学ぼうと思っても学べるものじゃないと思うんです。だから、岡さんもそのままでもいいんじゃないかなって思いますよ。やりたいことをとにかくやり続けるっていうスタイル。

:だからいけないんだよね、自分も、ペルーにいる佐藤さんのところの代表も(笑)

佐藤:なんか1人のエネルギーっていうか、「おかしくない?」って、そういう問いみたいなのが一番シンプルなエネルギーだって、改めて思いました。「人のために何かしたい」とか、やっぱり信じられないっていうか、それって結局自己満足だし、自分が気持ちいいだけじゃんって。だから、「違和感をどうにかしたいから前に進めるんだ」っていうパワーがあって、それを実際に岡さんの口から聞くことができて、今日は本当によかったです。ありがとうございました。

岡 勇樹(おか・ゆうき)

NPO法人Ubdobe代表理事。音楽×アート×医療福祉の領域でイベント・デザイン事業を展開。医療福祉系クラブイベントの企画運営やデジタルアート型リハビリテーションの研究開発などを行っている。2017年には日本財団ソーシャルイノベーターに選出される。http://www.ubdobe.jp

佐藤 有佳里(さとう・ゆかり)

福島県富岡町出身。障害のある方とそうでない方の社会での待遇の差に違和感を感じながら、学齢期を過ごす。世田谷福祉専門学校で手話通訳を学んだのち、聴こえない方専門の接客窓口ソフトバンク渋谷手話カウンターで接客を経験。LITALICOジュニアにて療育を経験し現在に至る。

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

この記事が気に入ったらシェア!

この記事を読んだ人はこちらも読んでいます

体と頭と心をつなげて考える福祉

音楽/アート/医療/福祉を横断するイベントを数多く手がけるNPO法人Ubdobe(ウブドベ)の代表、岡勇樹さんへのインタビュー。

GOCHAMAZE times Vol_7 冬号

音楽/アート/医療/福祉を横断するイベントを数多く手がけるNPO法人Ubdobe(ウブドベ)の代表、岡勇樹さんへのインタビュー。

Support Us