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いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

北山対談vol.1 松本麻衣子さん

松本 麻衣子さん

ソーシャルデザインワークス代表の北山剛が、いわきで活動する中で出会った魅力的な方やキーパーソンに話を聞く対談企画「Kitayama’s talk session」。第1回目は、ソーシャルデザインワークスの労務管理を委託している社労士の松本麻衣子さんがお相手。「地域」と「起業」について、2人の対談が膨らみます。

北山 松本さんが独立して起業したのは、平成24年でしたよね。今年で5年目ということだけれども、独立を志した頃のきっかけを教えてもらってもいいですか?

松本 私は震災が契機で起業しました。何というか勢いでやってしまったんですよね。当時はハローワークで助成金の担当をしていたんですけど、震災があって、『会社が津波で流されてしまった』とか、『従業員の給料も払えないんだ』なんて、本当に大変な状況に置かれた方の相談が少なくありませんでした。そういう光景が目の前にある。そんなとき、行政ができることって限られているし、民間の企業が、長い時間をかけて被災された方々の事業をサポートしていくことが必要だなって思って起業したんです。

北山 すごいですね。ぼくも実際にはやっぱり震災がきっかけでしたね。震災があって地元に足を運ぶうち、いわきの障害福祉の現状を知ることになって、これは変えないといけないなって思わされて。それで突き動かされるように勢いで会社作っちゃったんです。やってみて一番驚いたのは、思いに共鳴して協力して下さる方が、いわきにこんなにもいるんだってこと。正直、いると思わなかったんですよ。

松本 そうですね、やっぱり同じように震災を契機に地域のことを考える方が増えたのかもしれません。会社も地域もよくしたいって考える方が増えてきましたよね。

北山 独立といっても、社労士というのは1人親方みたいな働きかたでしょうから、完全なる独立体というよりは、様々な会社に入って活動していくわけですよね。この5年で、どんな繋がりが増えてきましたか?

松本 社労士の仕事って「第三者的」に企業に関わるポジションなんですね。でも、当事者として感情移入していかないといけない職だと思っています。企業が何を求めているのか、どんな会社にしていきたいのかを心を込めて聞かないと、企業のことがわからないし、アドバイスもできないですからね。だから私は、一人親方だけれども、いろんな会社の一員として働いているつもりです。制度相談や研修など、それぞれのチームの一員だと思って仕事ができている。だからモチベーションはすごく高いです。

北山 そんな思いでやってらっしゃるんですね。実は、社労士とか「○○士」みたいな仕事って、けっこうドライに流れ作業として色々な会社の業務をこなすイメージが強かったんですよ。でも松本さんは違いますね。それが意外というか、ぼくはそういう人たちと仕事をしてみたいと思ってました。結局、何をやるかも大事だけど、誰とやるかもすごく大事なんですよね。思いのある人たちで繋がって結果的に地元のためになる、そんなつながりができないか、でも難しいだろうなあと思ってきたので、松本さんとこうして仕事ができて本当にうれしいんです。

松本 ありがとうございます。やっぱり「思い」があって、それが承認されるってことが本当に大事なんだと思います。社員研修では心理学のメソッドを使うことが多いんですが、やっぱり人って誰かに認められたい、承認されたいという気持ちがモチベーションに繋がるんです。他者からの承認欲求が満たされ、自己を承認できることで、人にも優しくできるし建設的な関係が築けるようになるわけですよね。がんばっている人が正統に評価される、認められるという企業文化が根付かないといけないと思って活動しています。

北山 そうですね、ちゃんと見てもらってる、ちゃんと褒めてもらって声をかけてもらえる。とても小さなことかもしれないけど、すごく大事ですよね。ぼくもそういう時間を意図的に作るように心がけてますよ。

松本 なんか日本人って『言わなくてもわかるから』なんて言って、気持ちを言葉に出さないことが多いですよね。でも、やっぱり評価していることは言うべきだし、社員としてあなたが必要なんだって言われたら、うれしいものだと思います。だから今仕事させて頂いている企業の社長さんには「社員に労いの言葉をかける機会をもちましょう」って言うようにしてます。

北山 そうかもしれませんね、日本人って親父の背中を見て育てみたいな言われ方が多い。どうなんだろう、寡黙な父親を見ながら育ってたりしてるからなのかなあ。なかなか口に出して褒めないですよね。褒めるのが下手というか。

松本 そうなんです。だから、わたしはいつも調整役として企業に入っていくことを心がけています。社長の口から直接言いにくい場合は、わたしのほうから「社長も期待してるみたいですよ」って声をかけてみたり。つまりハブとしての役割を果たさないといけないなと思っています。

北山 社労士って、おそらく社長との付き合いのほうが多いと思うんだけど、松本さんみたいに社員のほうに入っていってくれる社労士というのは心強いと思うなあ。

松本 やりすぎてもいけないんですよね。何様なんだって感じちゃう人もいますし。でも、そういう経験を通じて「ああ、ここが境目だったか」と気づくことができるのも事実。トライ&エラーを繰り返しながら、社員の皆さんに信頼してもらえる関係を作るしかないと思っています。

北山 松本さんがこれから目指していきたいことってどんなことですか?

松本 そうですね、多様な働き方や働く場があっていいし、どんな人にも働く権利があるべきだと思うんです。特に、育児中のハンディキャップを抱えている方や高齢者がもっと輝ける場を作りたい、ってことをずっと考えてはいますね。ただ思いがあるだけで、具体的にどうしたらいいかはまだわからないんですが。

北山 ぼくも、障がいのある方が働くのは当たり前のことなんだってことを、みんなに伝えていきたいと思っています。でも、それって大事だよねって言ったところで状況はあまり変わらない。だから既成事実を作って、自然にそういう場所にしてしまう、ってことを考えてます。それをみんなと一緒に創ることが大事なんだと思うんです。

松本 そうですね。ごちゃまぜイベントなんか、特にそうですよね。

北山 もっと大事なのは、ぼくらが発信することより、参加する人たちが「面白いからやってるんだよね」って気持ちを持ってもらうこと。巻き込み力っていうのかな。色んな人たちを巻き込んでいかないといけないと思います。それから、ぼくらがちゃんと指揮者になるということ。形ができて継続していくには、やっぱり指揮者にならないといけません、できるだけ目立たない指揮者に。

松本 わかります。やっぱり一部の人間だけが問題意識を持っていてもしょうがないというか、参加してくれた人が「これは私たちがやったんだ」という感覚が得られることが大事ですね。そうやって自分が認められていく土壌をつくる。それで初めて他の誰かを認めることができるようになるんだと思います。

北山
 結局、関係者だけが動いていてもできることは限られます。障害福祉のプロだけがやればいい問題ではないですから。だから、自治体と組んでイベントを企画する時は、「障害福祉課」ではなく「市民協働課」の皆さんに力を貸してもらいました。福祉じゃなく、市民の恊働。こういう場をどれだけ作っていけるか、なんですよね。そういうスタンスで動いていくと、意外と自治体も動いてくれるんですよ。
松本 そうかもしれませんね。まだわたしは会社の事業のことしか考えられなくて、具体的に自分たちで企画したりっていうことはできていませんが、それには仲間を増やすことですよね。北山さんが実践されてることが、そうだなあ、1、2年後になったらできるように、これから仲間を増やしていければと思っています。

北山 所属は違うけれど、このいわきを楽しくしていこうという仲間、同士として、これから色々と繋がってがんばっていきましょう。今日はありがとうございました。

 

(聞き手・構成 小松理虔)

profile 松本 麻衣子(まつもと・まいこ)
1980年福島市生まれ。国立福島高等工業専門学校卒業。
サービス業に携わった後、車載製品メーカーに転職し、購買部門でバイヤーや企画業務を担当。
その後、社会保険労務士試験合格を機に、福島労働局平公共職業安定所にて助成金担当として勤務。
2012年に社労士事務所を開業。

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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