GOCHAMAZE timez(ごちゃまぜタイムズ)
いわきから「ごちゃまぜ」 あらゆる障害のない社会へ

地域を諦めない心

小宅 優美さん

筑波大学大学院で「社会教育学」を研究する、いわき市田人出身の小宅優美さん。一見するとごくごく普通の大学院生ですが、地元の伝統芸能の保存活動や、在京の福島県出身学生による学生団体の運営、さらにはソーシャルスクエア内郷でのインターンなど、地域のコミュニティに根ざした活動のなかで、自身の研究を続けています。パワフルに動き続ける小宅さんに、活動の原点についてお話を伺いました。

 

一般的には聞き慣れない「社会教育」という言葉。これは、社会人に対する成人教育や、公民館などでの様々な講座など、社会の構成員として責任を果たせるような市民を育成するための様々な学びのことを指します。一言でわかりやすく言えば「生涯学習」のような活動ですが、その社会教育を研究対象にするのが、社会教育学。小宅優美さんは現在、筑波大学大学院でこの社会教育学を研究しています。

もともとは地方政治や行政などに関心があって、筑波大学の社会学類に入学したんですけど、学部のときにお世話になった先生に影響を受けて、研究者として地域にどう関わればいいかということを学びました。五十嵐泰正先生というのですが、先生の地元の千葉県柏市ではまちづくりに関わっていたり、研究者でありながら、1人のまちづくりの担い手として地域と関わってらっしゃって。その姿に影響を受けて、研究を続けながら地域と関わっていきたいと思って、社会教育学を選んだかたちです。

今は、東日本大震災の被災地を研究対象にしています。その町はとても小さい町なんですが、被災された方たちだけでなく、被災した地域にやってくるボランティアを受け入れたり、大きな変化が生まれている町なんです。小さな町にたくさんの人たちが外からやってきて、町やコミュニティがどう変わり、どう影響し合っているのかを研究しています。

そこで感じるのは、震災から5年間の変化ですね。最初は、ボランティアの方々を受け入れてきたNPOすらも、外者の目線で見られていたようですが、最近ようやく受け入れられてきて、今までは違うコミュニティが町のなかに生まれている状況になってきました。一方、ボランティアに来て自己満足で終わってしまう方も以前は多く、「関わり疲れ」と言えるような状況があったのも確かです。それを超えて生まれているコミュニティなので、受け入れる側にもある種の我慢強さが必要だし、入る側にも丁寧さが必要なのだと言うことを改めて学ばされています。


恩師に憧れて社会教育学を研究対象に選んだという小宅さん。現在は東北各地を駆け回る日々。

—時間をかけて、地域に根を張る

小宅さんが、筑波大学での研究以外に力を入れているのが、福島県出身者による学生団体「TEAM IUPS」です。メンバーは現在のところ4名。小宅さんは代表を務めており、福島県出身の在京学生の集まり「あづまっぺ会」を柱に、2014年からは、小宅さんの地元である田人地区の「黒田不動尊祭典」の再興プロジェクトを手がけるなど、地域に根ざした様々な企画を精力的に行っています。

あづまっぺ会は、シンプルに福島に縁のある学生が集まって、気軽に地元も楽しもうというイベントです。基本的には外からどう地元と関わるかということをテーマにしていますが、まずは東京でも地元に関わる接点を作らないといけないよね、ということで始まった企画です。ゆるくお酒を飲みながら地元のことを語る中で、新しい問題意識や取り組みのアイデアが生まれることもあります。何かが始まる起点づくりのための会というイメージですね。

田人の取り組みは、さらに地域との関わりを深くした企画です。これは単純に、震災で途切れてしまった地元の伝統芸能をどうやったら復活できるだろうか、という、田人出身者としてのシンプルな問題意識から始まりました。黒田地区の黒田不動尊に奉納された念仏太鼓や獅子舞を復活させようというプロジェクトで「PASS FOR 2014PROJECT」という名前がついています。これは2014年、2015年と2年続けて関わることができました。

関わり初めの頃は大変でした。黒田不動尊は、黒田地区のなかでも「上黒田」の皆さんが中心になっていて、私は下黒田の人間だったので、「下黒田の、しかも女の子が来て何やんだ?」みたいな雰囲気でした。それでも長く関わってきたからこそ、少しずつ地域の皆さんと打ち解け、信頼関係が構築できたと思っています。私は単純に関わることが楽しくて続けることができましたし、その思いを理解してもらったことはすごくありがたいなと思っています。

地方はどこでもそうかもしれませんが、どこまで本気なのかを探っているようなところがあります。外から来た人の本気度を試すというか、どれだけ長く関わるかを見ている。通い続けないと得られない信頼がある。田人は私の地元なはずなのに、一歩外に出れば、こうして長く関わることが求められるんですよね。それは同時に、地域の課題を解決したり、何らかのアクションを生み出すためには継続性が重要だということかもしれません。

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田人のプロジェクトでは地元の人間としてお祭りに参加。厳しい練習にも参加した。

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奉納の日には衣装に身を包み、念仏太鼓を奉納した。田人の夏が、学生たちの支援によって復活。町に活力を生み出した。

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震災後にストップしていた念仏太鼓。TEAM iupsの活動により、歴史がまた動き始めた。

—社会教育に欠かせない、0から1を作る場所

地域のために様々な活動を続けてきた小宅さん。実は、昨年からソーシャルスクエア内郷のインターンとしても働き始めています。時間を見つけいわきに帰省すると、そのたびにスクエアに顔を出し、利用者やクルーたちと一緒にカリキュラムに参加したりサポートに回ったりと、忙しく動き回ります。

実は、代表の北山さんが創業に関わった株式会社ウイングル(現リタリコ)の就職試験を受けて、内定を頂いていたんです。その時に私がいわき出身だと知った北山さんのほうから声をかけて頂いて。その後、考え直して研究を続けたいなと思って内定を辞退させて頂いたんです。その時にインターンにも来てみてと声をかけられていて、リタリコの創業に関わった北山さんがいわきでどういう取り組みをするのか興味もあって、インターンとして関わらせて頂くことになりました。

ソーシャルスクエアは、私にとってとても居心地のいい空間で。いつ来ても受け入れてくれるような、オープンな雰囲気がとてもいいなと思っています。障害のある方、それから外国人の皆さん、特に閉鎖的な田舎だと異質に見られてしまうことも多いと思うのですが、それって私たちが今まで接したことがないだけだと思うんです。一度接してしまえば、何も変わらないことがわかるのに、そういう場がなかったわけですよね。ですからそこに関わる側が、場をオープンにしていくことがとても大切だと思います。

マイノリティに対する理解って、1が2になるのはすごく早いものだと思いますが、0が1になるのは時間もかかるし、場がオープンでいないといけません。こういう0が1になるオープンな場所というのは、社会教育学の観点から見ても、地域の学びに繋がる場所だと思いますし、こういう場所を作ったり、それをサポートしていくことが、そのまま地域の財産になると思います。


地域を諦めない人でありたいと語る小宅さん。優しげな表情からは想像できない強靭な志の持ち主。

—地域を諦めない人をつくる

被災地での研究、学生団体の運営、さらにはインターンと、多彩な場所で活動している小宅さん。その行動力を支える原点について話を伺うと、意外な答えが返ってきました。

実は、高校生の時から進学や地域との関わりいうものにずっと違和感を感じてきたんです。一言で言えば選択肢のなさって言えばいいでしょうか。大学に進学する時も、国立大学に受かることが第一目標にされがちなことや、私の身の回りの同級生たちが「いわきには何にもない」と他県に飛び出していってしまうこと、なんとなく地域が見放されていくような状況に違和感を感じていたんです。

地方の選択肢の少なさには、どういう背景があるのだろうと思って、そんな問題意識から大学では社会学や政治学を学びたいと考えるようになったんですけど、要するには学校や社会に対して違和感を感じていて、実はそういう違和感や生きづらさみたいなものを感じてしまうという意味では、私もマイノリティだったんじゃないかと思っています。でもそのときから、「自分が住んでいる地域を見放さない」ことが私のテーマになったし、そういう地域になるにはどうすればいいかなって考えながらやってきました。

ソーシャルスクエアの北山さんが「働くを諦めない」ということをよくおっしゃっていますが、私は「地域を諦めない」ということになるでしょうか。それは私が田人という、いわきのなかでももっとも高齢化の進んだ山あいの地区で生まれ育ったことも関係しているかもしれませんね。でも、黒田のお祭りみたいに面白いもの、価値のあるものはたくさんある。東京にあるものがすべてじゃない。地域にあるものも同じ天秤に載せて、同じ土俵の上で価値を見極めることができるように、いわきのなかに様々な「選択肢」を作っていければと思っています。

 

profile 小宅 優美(おやけ・ゆみ)
1992年いわき市田人町生まれ。
筑波大学社会国際学群社会学類を経て、現在は筑波大学人間総合科学研究科教育学専攻在学中。
専門は生涯学習・社会教育学。2016年4月からは在京の福島出身でつくるTEAM iupsの代表を務める。

information TEAM iups(チーム・アイ・アップス)
www.teamiups.com

GochamazeTimesCompany

全国各地にライターやプロボノを抱える編集社。タブロイド紙|GOCHAMAZE timesの季刊発行、および、地域の方々と共創するごちゃまぜイベントの定期開催により、地域社会の障害への理解・啓発|年齢・性別・国籍・障害有無に限らず多様な”ごちゃまぜの世界観”をデザインし続けている。

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