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INTERVIEW

長期的な支援は「信頼関係」から

SPECIAL INTERVIEW
大方 真誌さん
作業療法士/新田目病院所属

長期的な支援は「信頼関係」から

患者のQOLを向上させるため、そして「自分らしい」生活を取り戻すための「リハビリ」を行うのが作業療法士と呼ばれる人たち。今回紹介する大方真誌さんもそのひとり。大方さんは、いわき市の精神科の専門病院、新田目病院で作業療法士として活躍しています。リハビリの現場、そして大方さんの思い。障害福祉の最前線のお話を、大方さんに伺って来ました。

 

いわき市の新田目病院。市内の静かな住宅地にあり、精神障害や疾患を持つ人たちの治療やリハビリを行う精神科の専門病院です。精神障害とは、脳内の情報を伝達する物質のバランスが崩れることで発症すると言われる精神的な疾患の総称。統合失調症や気分障害(うつ病や双極性障害)、適応障害などがあります。見た目には非常にわかりにくいため、他人から理解/支援されにくい障害とも言えます。

大方さんは、その新田目病院に勤める作業療法士。患者さんへのリハビリを行うのが任務です。病気やケガの治療の一貫で「リハビリ」を行うことは一般的ですが、精神科でもリハビリは実施されています。障がいを持った人が、自分たちの暮らしている地域の中で新たな人生を獲得するために、自分自身で回復していくことが精神科のリハビリ。大方さんはその最前線で、障がいを持った人たちのサポートに当たっています。

作業と聞くと、何かの「仕事」のようなことを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、私たちの呼ぶ「作業」というのは、日常生活の中で行う活動すべてを指します。「お風呂に入ること」「着替え」「食事」「トイレに行くこと」、これらもすべて作業ですし、「何もしないで休む」ことも作業です。その作業を通じて回復を目指すことを作業療法と呼んでいます。

身体の障がいや怪我からのリハビリでは、1週間や1カ月で効果が見えるものもありますが、精神の場合は、1年、2年と時間をかけてようやく回復傾向が見られる、と言ったような感じで、とにかく長く付き合うことが大事です。そもそもの精神障害によって、コミュニケーションが得意ではなかったり、こちらが呼びかけても反応してくれなかったりすることが多いので、基本的には長い目でリハビリしていくことが必要です。

時間がかかる分、成長や進歩が見られた時には喜びも大きいですね。以前できなかったことができるようになる。その積み重ねが、患者さんの自信につながり、その自信が社会へ復帰する大きな後押しになります。そしてその成長や回復こそが、私たちのやりがいにつながっていると思います。大変ですが、やりがいもある仕事です。

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他業種から作業療法士へと転職した経歴を持つ大方さん。

現在大方さんは、デイケアで2つのグループを担当しています。将来的な就労を目指す「就労組」と、高齢者が中心で、リハビリをしながら自分たちの居場所を確保しようという「生活組」。同じ「精神科のリハビリ」でも、どのような将来を思い描くかで支援の環境も異なりますし、やるべき課題も全く違います。

生活組は、高齢の患者さんが多いので、自分のペースに合わせて生活を少しずつ取り戻していく、といった感じの環境です。家だと何もすることもないから、ここでちょっと手を動かすんだなんて方もいますし、ここに来て何もしない方もいます。まずは自分の居場所を作ることが目的なので、心地よい雰囲気にしていくことを心がけています。

就労組は、将来的な就職を目指すところです。デイケアを終えると、作業所にいく人や、ソーシャルスクエアのような就労移行支援施設に通う方もいます。でも、焦ってしまって、ここで負荷をかけてしまうと再入院してしまう人も多いので、まずは自分のペースでやっていけるスペースにしていきたいと思っています。

精神障害の症状に「認知機能の低下」というものがあります。例えば洗濯1つとっても、水を入れて洗剤を入れてスイッチを押して、というように順序立てて考えるのが難しくなってしまうんです。水や洗剤の量をどうするかも考えなくてはなりませんよね。一人で何かをするということ自体が難しいので、やはりじっくりと取り組まないといけません。それは生活組も就労組も変わりません。

障がいをもった方の多くが、前の自分と今の自分を比べてしまって意欲が低下しがちです。私には無理だと初めから思ってしまうんですね。ですから「これができた」という成功体験を積み重ねていかなければいけません。時間のかかるリハビリだからこそ、患者さんとは長く付き合える信頼関係を作っていきたいと思っています。

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同僚の作業療法士たちと、リハビリの様子や方向性をじっくりと話合いながら、1人の患者と向き合っていく。

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一年を通して様々なイベントが予定されている。地域のなかで催しを行うことも増えたそうだ。

作業療法士として、すでに7年近くのキャリアになる大方さんですが、もともと福祉に興味があってこの道に進んだわけではないそうです。身近な人が障がいを持つ。今まで「リアリティ」の感じられなかった「障がい」が、ふと身近なものに感じられる。そんなことが、人生を変える転機になったようです。

元々は鉄工所で働いていて、工場で鉄を切る仕事をしていたんですが、たまたま同じ現場の先輩が指を怪我して、腱を切ってしまったんです。寛解はしたけれど障がいは残った、というような感じで、たまに動かしにくそうにしていました。その先輩を見て、障がいというものについて「何か自分にできることはないか」と考え始めました。それが最初のきっかけでした。

それでたまたま近所に勤めていた学校の先生に、作業療法士という仕事があることを聞いて、それだって思ったんです。それがきっかけで新田目病院に転職をしました。かれこれ8年近くなりますが、自分が変わったなと思うのは、喜怒哀楽を使い分けられるようになってきたことですね。患者さんは認知機能が低下してることもあり、「表情で読み取る」ことを苦手にしている人も多いです。基本は笑顔でいるようにしていますが、感情表現はメリハリをつけないと伝わりません。ビシッと言わないといけない時もありますしね。

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患者さん1人ひとりと、その未来や将来までも見越しながら向き合っていく。

大方さんの仕事は、リハビリだけに止まりません。担当医師や、精神保健福祉士(PSW)、市役所の担当者などとも綿密に連携し、患者にとって適切な支援を探り、自立の道を考えることも大事な仕事です。障がい者を雇用してくれそうな企業を周り、就労の現状をリサーチしたり、受け入れる側の現場の声を集めることにも余念がありません。

患者さんによっては、守られた環境でリハビリしたほうがいい方もいれば、社会の中でリハビリしていくほうがいい方もいます。どちらにも言えるのは「自分にもできた」という成功体験を重ねることで自信を深めること。それが、その後のよりよい支援、ひいては自立にもつながってくると思います。

デイケアのメンバーさんの中で、最近作業所に行き始めた方がいるんですが、作業所で仕事をしている時と、デイケアにいる時とで表情が違うんですよ。作業所の方がとても生き生きしてるんです。つまり、その人に合った仕事を見つけることが、病状を落ち着かせることにもなるし、自立にもつながっていくんです。つまり、「働く」ということで色々なことが好転していくんです。

精神障害を持った人は自分を「過小評価」してしまう人が多いんです。僕には無理だと。でも、実際にはできることが多いし、チャレンジしてみることで「これならできそうだ」と思い直す人も多いです。その意味では、地域の中で、そして企業の中で、そうした「これならできるかも」と思えるような場面を作っていくことが大事なのかなと思います。

その意味では、まだまだ地域の企業で、見学をさせてもらえるようなところも足りません。地元の一般企業や中小企業さんなど、障がいのある人たちを受け入れてくれそうな会社が増え、小さな成功体験を積み重ねられるような場が増えてきて、ようやく地域全体で障がい者を支えていく形が見えてくるのかもしれません。

障がいを持っている方というのは、自分一人で問題を抱えがち。すると、やっぱり自分には無理だと思い込んでしまうようなところがあります。そこを肯定的にしてもらえる人がいれば違う。一人だと悶々と考えてしまいますから。だからこそ、病院に止まらず、地域全体で支え合えるような形に繋げて欲しいですね。

 

profile 大方真誌(おおかた・まさし)
作業療法士。小野町出身。郡山市の鉄工所に就職したが、先輩の怪我を契機に障がい福祉に興味を持ち、新田目病院に転職。
作業療法士として患者と向き合い、数多くの人たちを社会に送り出している。

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。