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INTERVIEW

スポーツを通じていわきを豊かに

SPECIAL INTERVIEW
木田 直之さん
いわき市職員/スポーツ振興課所属

先月、いわき市の新舞子ヴィレッジで開催された「ごちゃまぜスポーツフェス」。子どもから大人まで、障害の有無に関わらず70人もの人たちが一緒に身体を動かす、素晴らしいごちゃまぜイベントになりました。開催にあたって協力して頂いたのが、いわき市スポーツ振興課の木田直之さん。いわき市のスポーツ行政、そして2020年への展望。いわきとスポーツの話をじっくりと伺ってきました。

 

いわき市新舞子に新しく完成したスポーツ施設「新舞子ヴィレッジ」。多目的広場やフットボール場、テニスコート、体育館などが併設された新しいスポーツ施設です。運営は、楢葉町のJヴィレッジが行っていることもあり、ハイレベルなコーチングスタッフも勢揃い。大会や練習の会場としてだけではなく、市民の「生涯スポーツ」の拠点として大きな期待が寄せられている施設です。

9月19日。ごちゃまぜスポーツフェスは、その新舞子ヴィレンジで行われました。あいにくの天気で体育館での開催となってしまいましたが、集まった数は、ごちゃまぜイベント最高となった70人。障害の有無、年齢、そして性別まで「ごちゃまぜ」になってスポーツを楽しむ、とても意義深い企画となりました。開催にあたって、さまざまな調整をして頂いたのが木田直之さん。いわき市スポーツ振興課で市内でのスポーツ振興全般に関わる仕事をしています。

職員としてスポーツに関わるようになってから、今年で3年目になります。わたしのいるスポーツ振興課は、もともとは教育委員会の「文化・スポーツ課」という組織だったんですが、スポーツ施策の効率的・効果的な推進、また、清水市長の震災後の心の復興のためには文化やスポーツが欠かせないという思いもあり、今年からいわき市スポーツ振興課として立ち上げられました。わたしは主に、スポーツ全体の振興をはかるための様々な業務を担当しています。

わたし自身、高校からずっとラグビーをやっていて、スポーツの魅力については身をもって体感してきましたが、震災後、数年間は原子力災害対策課にいまして、外で身体を動かすことができない子どもたちの現状を目の当たりにしまして。そこで、市の業務とは別に、子どもたちに身体を動かす機会を作ろうと、体育館を借りて子どもたちとタグラグビーをしたり、子どもたちが身体を動かせる場づくりをしてきたんですね。そこで感じたのは、みんなで身体を動かすことで、心の傷も回復していくんだということでした。

やはりスポーツの楽しさ、身体を動かすことの喜びと言うのは、やっぱり大きなものがあるんです。友だち同士でわいわい楽しく身体を動かしている子どもたちの目の輝きを見て、改めてスポーツの魅力を痛感しました。競技スポーツだけではなく、市民の生涯スポーツの場を豊かにしていくことで、市民の皆さんの生活の質の向上にも役に経てるのではないかと思っています。

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新舞子ヴィレッジで開催された「ごちゃまぜスポーツフェス」の模様。素晴らしい環境が整っている。

いわき市が文化スポーツを振興するのには、もう1つ理由があります。2020年の東京五輪です。この機会に、いわき市民のスポーツへの関心を高め、生涯スポーツを振興し、いわきの魅力や現状を世界に発信する機会にしたいと考えているからです。すでに、「東京オリンピック・パラリンピックいわき市推進本部」も立ち上げられ、さまざまな取り組みが始まっています。

すでに発表されている報道にもあるように、スポーツ産業の振興や風評の払拭といった期待がオリンピックに寄せられていることもありますが、もう1つ、事前のキャンプなどを通じて、国同士の交流を深めようという動きにも期待しています。内閣府の「ホストタウン」という取り組みがあり、1つの自治体が1つの国を応援しようというものなのですが、いわき市は、島サミットなどで交流が深まったサモア共和国が、ホストタウン相手国になっています。

教育委員会にいた頃は、スポーツというと「学校体育」としてのスポーツと、市民のスポーツとで分けられていたのですが、この部署ができてからは、福祉や観光、まちづくりなどとも連携を図るようになっています。単に健康とか鍛錬ということだけではなく、見たり、応援したり、交流したりすることもまたスポーツの面白さなんです。その意味では、これから東京五輪の開催される2020年までに、さらに色々なスポーツのイベントが行われていくようになると思います。

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現役のラガーマンでもある木田さん。スポーツに対する愛情がひときわ感じられた。

—スポーツできる環境にあるかが「格差」になっている

ラグビー選手として、そして市役所の職員として、スポーツの魅力を語って頂いた木田さんですが、いわき市には、スポーツにまつわる大きな問題もあると言います。それが「格差」の問題。地域にも、そして個人にもさまざまなプラスの効果をもたらすスポーツですが、木田さんは「できる人とできない人の格差が年々広がっているのではないか」と感じているそうです。

スポーツをやれる環境にある子どもと、やれる環境にない子どもの格差は何とか是正していきたい問題です。実は、福島県の子どもたちは、震災後に運動能力が下がっているという調査結果が明らかになっています。時代的なこともあるのかもしれませんが、やはり震災後の避難生活、外の遊び場がなくなってしまったことの影響は否定できません。しかし一方で、部活などの競技スポーツをやっている子どもたちのレベルは非常に上がっているんですね。全国大会などで上位に食い込む選手たちが続々と出てきました。

通える子と、通えない子で、差が生まれているということです。特にいわき市は広域都市ですから、山間部の子どもたちにとっては、中心部の小学校で行われるスポ少の練習に通うことすら難しくなっています。反対にスポ少に通っている子どもたちは、回数も多く、内容の濃い練習が続けられます。ですから、格差がどんどん広がってしまうんですね。そういうところを、わたしたちは解決していかなければいけません。

震災後、外遊びができなかった子どもたちと置かれている状況は共通しています。つまり、子どもたちのスポーツ環境に、例えば家が山間部にあって通えないとか、放射能の心配があるとか、そういう「障がい」があるということなんですね。ですから、障害福祉に強い関わりのあるソーシャルデザインワークスさんが「ごちゃまぜスポーツ」というコンセプトで企画を持ってきてくれた時には、とても共感しましたし、新たな発見がありました。

実は、スポーツのなかで障がいのある方と接するのは初めてではありません。以前、タグラグビーのイベントに障がいを持った方が来たことがありました。とても楽しそうにしているので、日常的に開催しているラグビー教室のことを教えてあげたんですね。そして、その別のラグビー教室にわたしが後日行ってみると、その方がメンバーになっていたんです。とてもうれしかったですね。こういう環境を作ることが大事なんだと改めて思った出来事でした。

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普段はデスクワークが多いという木田さん。課内のムードも2020年に向けてじわじわと熱が上がってきているようだ。

—スポーツの魅力を感じてきた一人だからこそ

自身がスポーツ選手であるだけでなく、スポーツ行政を担う市の職員であり、さらに個人でも、子どもたちのスポーツ環境を向上させる取り組みをしている木田さん。そんな木田さんが、スポーツ振興の大きな目標に掲げているのが、「子どもたちや高齢者、スポーツを楽しめる環境にない人たちにも楽しめる環境を作っていくこと」だといいます。

社会の中の、運動ができない環境にある人たち、山間部の子どもたちや、高齢者や、何らかの障がいを持った人たちが、もっとスポーツを楽しめる持続的な「仕組み」を作ることが、わたしのやるべきことだと思っています。わたしはラグビーをしてきたので、ラグビーの魅力を知って欲しいという気持ちはありますが、どんなスポーツでもいいんです。スポーツを通じて、みんなが地域と一緒に楽しくなっていければいいですね。ちなみに、タグラグビーは、子どもたちにとても人気なんですよ。

ただ、環境を持続できなければ意味がありません。ボランティア精神だけに頼って、一部の人たちが負担するというような形だと、やはりいずれ破綻してしまいます。行政や民間の力を合わせて、地域の中で回っていく仕組みを作っていかなければいけません。まだ得策は見つかっていませんが、まさに今回の「ごちゃまぜ」には、多くのヒントがあったように思います。

スポーツには、健康増進だけでない大きな魅力があります。それは「人間的な成長をもたらしてくれる」ということなんです。スポーツは、人生を豊かにしてくれるんです。だからこそ、年齢や障害の有無や、住んでいる地域に関わりなく楽しめる環境を作っていきたいと思っています。選手としても、行政の担当者としても、スポーツの魅力を感じ続けてきた1人として、息の長い活動を続けていきたいと思っています。●

 

Profile 木田 直之(きだ・なおゆき)
1974年、いわき市四倉町生まれ。
小・中学校は野球、高校、大学はラグビー部、現在もいわき市役所の職員が母体のクラブチームに所属。
大学卒業後、いわき市に入庁。地域振興課、原子力災害対策課などを経て現職。

 

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。