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INTERVIEW

高齢者福祉から、いわきを面白く

SPECIAL INTERVIEW
猪狩 僚さん
いわき市職員/いわき市保健福祉部地域包括ケア推進課

いわき市役所で、今年の4月から動き出した新しい部署である「地域包括ケア推進課」。保健福祉部内に新設され、とりわけ高齢者福祉に関わる業務を行っています。同課で主査を務める猪狩僚さんは、いわき市の高齢者福祉に新しい風を送り込もうと奮闘する若手職員の一人。避けては通れない「超高齢化」に、猪狩さんはどのように立ち向かおうとしているのか、話を伺いました。

 

いわゆる「団塊の世代」が一気に75歳以上の後期高齢者になり、医師や看護士、ヘルパーなどの従事者だけでなく、病院やサービス事業所の数が足りなくなり、医療や福祉が破綻しかねない状況に陥ると懸念されている「2025年問題」。超高齢化は、このいわき市にも例外なく訪れつつあります。限られた資源で高齢者をいかに支え、社会のシステムを維持していくのか。全国の自治体が頭を悩ます喫緊の課題となっています。

そこで、いわき市保健福祉部に今年4月に新設されたのが「地域包括ケア推進課」。地域の中でいかに高齢者を支え、生きがいのある人生を送ってもらうのか。これまでとはまったく新しいシステムを地域とともに作り上げていくために、様々な取り組みをスタートさせています。

私たちの課は「長寿介護課」の一部が分離してできたもので、一言で言えば「高齢者にいつまでも元気でいてもらう」ことを目指す部署です。私たちが子どもの頃そうだったように、医療も、介護も、あるいは買い物なども、四倉とか小名浜とか内郷とか、市内のそれぞれの各町で完結でき、そこに暮らす人が不自由なく暮らせるような仕組みを作ろうと。少し乱暴な言い方になるかもしれませんが、自分の意思で人生を終えられる当たり前の暮らしを取り戻そうと、そういうことでもあります。

私の祖父母は幸運にも大往生で、亡くなるまで、地域のお医者さんが往診して下さって、脈を測ったり聴診器を体に当てたりして、祖父母のことを最後まで見守ってくれたのを覚えています。昔はそういう暮らしが当たり前だったのではないでしょうか。ところが、今は核家族化が進んで、24時間面倒見てくれるような地域医療も難しくなってきています。医療や介護に不安があると、家族はどうしても介護施設を求めてしまうものですよね。でも、高齢者本人は家に帰りたいと望んでいるかもしれない。

例えば、90年近く生きてきて、家族には無理を言うかもしれないけれど、なるべく自分の生まれ育ったところで最期を迎えたい。それは人としての最期の意思決定だと思うんです。なるべく少しでも生まれ育ったところで、四倉の人は四倉で、小名浜の人は小名浜で、波の音を聞きながら、ご近所さんとおしゃべりしながら過ごせるような地域のあり方を目指していこうと、それを作るのがぼくたちのミッションです。

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地域包括ケアについてお話し頂いた猪狩僚さん。時折冗談を織り交ぜながら、とても分かりやすくレクチャーして頂いた。

―地域全体で高齢者を支える

猪狩さんたちが目指すのが、地域で高齢者のケアを行っていこうという仕組み。病院や介護施設だけに頼ることなく、地域づくりの一貫として、地域の人たちが高齢者を支えようというものです。課の取り組みはまだスタートしたばかり。これから数年をかけてその仕組みを作っていくのが仕事ですが、新しい部署に来て数日。猪狩さんは早速自身の「腹案」を語ってくれました。

ぼくが今、着目してるのが、いわき市の元気な高齢者の皆さんです。統計によれば、いわき市には65歳以上の方がおよそ9万人暮らしています。そのなかで、例えば老人ホームに入っているとか、ヘルパーさんを使ってるとか、介護サービスを利用している方が2万人、サービスは使っていないけれど自分1人では生活が難しいという方が1万人と言われています。つまり、残り6万人の方は、日々の暮らしに大きな障害はなく、支援を必要としていないということです。

この6万人の超元気な皆さんに、そのまま超元気でいてもらいながら、少しずつ皆さんの手を借りて、助けが必要な高齢者を支えていくことはできないだろうかと、今そんなことを模索しています。つまり、市民が主体になり、元気な高齢者を巻き込みながら、地域全体で高齢者を支えていくような社会のあり方です。

ぼくの自宅は平窪にあるんですが、皆さん家庭菜園の延長のような畑を持ってらっしゃる。多くの人たちはご夫婦だけで住んでいるので、自分たちでは食べきれないほどおいしい野菜ができてしまうんです。それで我が家に持ってきて下さるような人もたくさんいるんですが、その野菜を、ぼくの家ではなく地域の公民館に持ってきてもらって、地域の高齢者や子どもたちが食べられるように調理するボランティアになってもらうほうが、みんながおいしいを共有できるんじゃないかと思うんです。

ただ、純粋なボランティアというのだと続けるのも難しいと思うので、例えば、野菜を1kg持ってきてくれたら何ポイント、1時間料理を作ってくれたら何ポイントというように、地域に対する貢献を数値化していって、それらを自治体が還元しながら、みんなでお茶を飲んでおしゃべりできるようなコミュニティを作っていく。そんなことを構想しています。

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新しく動き始めた部署で、猪狩さんは悲壮感なくいわきの高齢者問題に対峙する。すっかりムードメーカーの風格。

—今の延長線上にハッピーはない

地域の高齢者を一般の人たちが支える。そんなことを聞くと「行政の怠慢じゃないか」と思ってしまう人もいるかもしれません。「高齢者福祉」は確かに行政サービスの1つではあります。しかし、今盛んに叫ばれている「子育て」もそうですが、市民や事業者が自治体と共に動いていかないと、もはや地域を支えられない時代に入りつつあるのが現状。猪狩さんたちの感じている危機感は、かなり大きなものがあるようです。

これから一気に、ぼくたちの親世代が75歳になっていきます。病院のベッドも老人ホームも足りなくなる。料金もあがり、みんなが気軽にヘルパーをお願いしたりすることは難しくなってくるでしょう。病院や施設の負担も増しますし、充実したサービスを受けられなくなるかもしれません。そうなる前に、地域全体で高齢者を支える仕組みも作っておかないといけないという危機感はありますね。

これは、決して高齢者を切り捨てるということではないんです。病院や施設に通う人がいてもよい、でもそれだけでは弾かれる人も出てきてしまうから、地域で過ごす人がいてもよいという選択肢を増やそうということです。皆が皆、高級老人ホームを目指す社会では、そこに入れなかった人を不幸にしてしまう。これまでの延長線では、お互いハッピーになれないんじゃないかと思うんです。

だから、そうではなく、高齢者の暮らしの選択肢を増やそう、そしてその選択肢を、地域とともに作っていこうということなんです。かつてぼくたちの祖父母がそうだったように、地域の中で年を取り、自分の生まれ育ったところで最期を迎える。そういう選択肢があることが、社会の豊かさになっていくんだと思います。

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お仕事の合間を塗ってインタビューに応えて頂いた猪狩さん。大学卒業後、ブラジル移住を経て入庁した異色の職員でもある。

―高齢者福祉も「ごちゃ混ぜ」で

意外なことに、高齢者福祉を模索する中で大きな影響を受けたのが、ソーシャルデザインワークスの掲げる「ごちゃまぜ」の理念だったと猪狩さんは語ります。猪狩さんが今構想しているのは、高齢者も障がい者も外国人も日本人も大人も子どもも、みんながごちゃまぜに地域に関わろうとする仕組み。誰かに世話されるだけでなく、小さなことでも誰かのためになり、お互いが感謝し合う中で作られる地域の絆。

北山さんから平養護学校の生徒の話を聞いて、これだって思ったんです。誰かの助けが必要だった生徒たちが、募金活動やボランティアを通じて、今度は誰かを助ける側に回っていく。そのなかで小さな成功体験を積み重ね、自己を承認していくんだと。これは高齢者をはじめどんな人にも当てはまるような気がします。みんなが苦労も喜びもシェアしながら、自分の行動が誰かに喜ばれ、多様性を認め合っていく。その結果、地域が少しずつ面白くなっていく。それを高齢者福祉でもできるんじゃないかと。

例えば、足が少し悪いんだというおばあちゃんも、子どもを見ていたり、あやしたり、ママたちに昔ながらのお料理を教えたり、できることがきっとあると思います。助け合いのなかで、子どもも大人も高齢者も一緒に交わっていく。それを地域の集会所や公民館でやっていけたら、新しいハコモノを作る必要もなく、地域のなかに交流拠点が生まれていくと思うんです。

身近なローカルのところで、小さくてもいいから草の根から始まって、なぜか小名浜の高齢者はすげえ楽しそうだなとか、湯本の高齢者は生き生きしてるなとか、そういう小さな場を作っていきたいんです。それができたら、地域の赤ちゃんやママたちともウインウインになって、もっと高齢者が輝いていける。そしてそういう小さな地域が面白くなって初めて、いわきが面白い土地になっていくんじゃないかな。

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猪狩あるところ笑いあり。思わずその魅力的なキャラクターに引き込まれてしまいます。

—多様性を認め合ういわきに

猪狩さんの言葉には悲壮感というものがありません。深刻な超高齢化の話をしているのに「面白い」とか「楽しい」とか、そういう言葉ばかり出てくるのです。それは、猪狩さんが、高齢者の問題をハッキリと自分の問題として考えているからでしょう。75歳になった自分をイメージしながら、こんなところに住みたいというビジョンが頭のなかにあるのだと思います。

歯を食いしばって、悲壮感を持って、一部の志の高い人が重荷を背負う社会ではなく、みんなでシェアしていく社会のほうがいいじゃないですか。ぼくら世代は、デザインやアイデアの力で、面白いや楽しい、やってみようという気にさせる「仕組み」を作る。それが役割だと思っています。やっぱり感性に訴えかけるような面白いことの方が、みんな参加できるし、長続きするじゃないですか。

義務感で人を動かすんじゃなく、自発的な気持ちになれることが大事。例えば「いわき踊り」もそうですよね。別に伝統芸能じゃない、テレビで紹介されるわけでもない。でもなぜかみんな平とか湯本とか小名浜とか四倉とか勿来とか、町単位でみんな勝手に踊って楽しんで自己完結している。そういう福祉のあり方もアリなんじゃないかと思うんですよ。ぼくだって、家族やみんなと一緒に楽しみながら年を取っていきたいですもん。

超ごちゃまぜで、どんな立場の人も、みんな一緒にチームを組んで、一緒にご飯を食べたり、歌を歌ったり、言葉を交わしたり、それだけでいいじゃないですか。そんなことを通じて、お互いの立場を尊重したり認め合ったり、地域の差を楽しみ合ったりできるようになる。多様性を認め合ういわきになっていくんじゃないかと思います。

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猪狩さんが行政経営課時代に関わったグランドデザイン。冒頭に書かれた「共創」はこれからの地域づくりの最大のテーマ。

猪狩さんの話を聞いていて、強く思うことがありました。高齢者福祉とは高齢者だけの問題ではないということ。いつかは自分も高齢者になるのです。だったら、私たちが考えるべきは、「今の高齢者のため」ではなく、「いずれに高齢者になる自分がどうしたら楽しく人生を送れるか」だけなのではないでしょうか。そんなことを気づかせてくれた猪狩さんの「地域包括ケア」。なんだかとても楽しみになってしまいます。

この課に来る前、行政経営課時代に、次のいわきの5年のグランドデザインをまとめる仕事を任されました。その計画書の一丁目一番地には、僭越かもしれないけれど「共創」という言葉を使いました。役所だけでやりきるのではなく、市民も事業者もオープンな立場で地域のことを考えていくことが必要だと感じていたからです。

いわきって、各地域に食をはじめとする多様な文化があって、それぞれの地域に面白い歴史があって本当に豊かな土地なんだと思うんです。でも、ちょっとバラバラで、連携が取れなかったりしていた。これからは、それぞれの地域がごちゃ混ぜのまま交わって、違いを認め合っていく地域になって欲しい。それには「もっと面白くなるにはどうしたらいいか」、それだけがあれば十分だと思うんです。地域のためにと難しく考える必要はないんじゃないですかね。

 

profile 猪狩 僚(いがり・りょう)
1978年いわき市四倉町生まれ。 磐城高校、明治学院大学へ。
卒業後、2000~2001年まで1年間、ブラジルのリオグランデ・ド・スル州に留学。
2002年入庁。入庁後は、水道局、公園緑地課、財政課、行政経営課を経て現職。

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小松理虔|ヘキレキ舎
小松理虔|ヘキレキ舎
フリーライター。いわき市小名浜在住。UDOK.というオルタナティブスペースを主宰しつつ、地域に根ざした企画、情報発信、地産商品のブランディングや営業支援などを業務とする個人事務所「ヘキレキ舎」を運営中。